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うみねこ通信 No.53 平成15年11月号

脳卒中予防に関する最近の医学情報
~脳梗塞にならないために~

脳神経外科部長  鈴木 直也

最近の医学の世界では、従来経験的に最良と思われていた治療が本当に正しいのかをはっきりさせようという動向があります。たとえば「高血圧症の人に脳卒中が多いことが判明しているが、高血圧症を治療すると脳卒中の予防効果があるか?」という疑問を、統計学という数学を使って治療効果の信頼性を確かめようという考えです。証明された治療法などは科学的根拠(=Evidence,エビデンス)と表現され、効果の証明された治療を重点的に行おうとする意図があります。こうして行われた検証の結果、従来の考えがほぼ正しかったことや、もしくは従来考えられていた以上に重要であったことが見いだされるようにになってきました。

脳卒中には脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血などの種類がありますが、このうち最近多いのは脳梗塞です。ここでは主に脳梗塞に関連して証明された事柄を以下に紹介します。(*1)

<脳梗塞を起こしやすくする病気や生活習慣>

・高血圧症 :相対的危険度が3~5倍に上昇。
血中コレステロールが高値であること
(240mg/dl以上)
:相対的危険度が1.8~2.6倍に上昇。
・喫煙 :相対的危険度が1.5倍に上昇。
・運動不足 :相対的危険度が2.7倍に上昇。
・頚動脈の50%以上の無症候性狭窄 :相対的危険度が2倍に上昇。
・お酒の過量摂取 :相対的危険度が1.6倍に上昇。
・心房細動(よくある不整脈のひとつ) :相対的危険度が5倍に上昇。弁膜症があれば17倍に上昇。

<脳卒中の初発予防に効果のある治療>

(1)高血圧症の治療 :高血圧治療は脳梗塞にも脳出血にも予防効果があります。高血圧症の判断基準は、これまで日本では血圧140mmHg以上と考えられてきました。しかし最近2003年5月アメリカで発表された基準(米国合同委員会第7次報告)ではもっと厳しい基準が提案され、これによれば120~140mmHgでも「高血圧前症」で治療が必要であり、120/80mmHg未満が目標とされています。ただし血圧目標値は一律ではなく、高血圧症と言われた人は140/90mmHg未満が目標、糖尿病や慢性腎障害の人は130/80mmHg未満が目標です。この基準はまだ日本では一般的ではありませんが、血圧の治療はますます重要視されています。
(2)禁煙 :ある研究によれば、禁煙することによって脳卒中発症危険度が低下し、喫煙者において高かった脳卒中発症危険度は5年以内に消失するそうです。この効果は年齢とは無関係であったため、禁煙をするのに遅すぎることはないと考えられます。
(3)高脂血症(高コレステロール等)の治療 :食事療法で良くならないときには内服治療剤が使用されます。その場合スタチン剤と呼ばれる薬による適切な治療を行えば、脳卒中の危険度が25%低下するといわれます。
(4)心房細動に対する抗血栓療法 :心房細動は加齢とともに増える傾向のある不整脈です。時々生じて知らないうちに元に戻ることもあるので気づかないことも多く、まさか不整脈で脳卒中が起きるとは連想しがたいかもしれませんが、脳動脈硬化が少ない人でも突然重症~致命的脳梗塞を起こすことがあります。この不整脈を有さない人と比べて、脳卒中や塞栓症により死亡率は約2倍、脳卒中発症率は平均で年5%という意見もあります(*2)。これにはワーファリンという薬が有効と証明されていますが、出血が止まりにくい副作用もあるので、ケガをしやすい人や胃潰瘍などの人は注意して使わなくてはなりません。
(5)抗血小板療法 :アスピリンという薬は血液を固まりにくくする作用を有します。出血が止まりにくい副作用が少々あり、心筋梗塞の初発予防の効果があるものの、脳卒中の初発予防には効果が少ないと言われます。ただし、一度脳梗塞を起こしたことのある人に対しては脳梗塞予防効果があります。
(6)心筋梗塞後の抗血栓療法 :心筋梗塞後には脳梗塞の危険は上昇しますが、抗血栓剤のアスピリンなどの内服によって脳卒中発症の危険度を24~37%低くすることができます。
(7)糖尿病の治療 :糖尿病は脳梗塞を発症する危険が高く、さらに高血圧症や高脂血症などの危険因子を合併しやすいという事実があります。しかし血糖の治療で脳梗塞の予防ができるとの確証はまだ得られていません。

脳卒中は以上を参考にある程度予防が可能です。血圧・血糖・コレステロール等は自覚症状がなく検査で初めて気づくこともありますので、心配のある方はお近くのかかりつけ医に相談することから始めてみるのがよいかもしれません。

(*1) Sharon ES,Sumit RM,Finlay AM.New Evidence for Stroke Preven-tion.Scientific Review.JAMA. 2002.288,11:1388~1395
(*2) Wolf PA,Abbott RD,Kannel WB:Atrial fibrillation:a major con-tributor to stroke in the elderly:the Framingham Study.Arch In-term Med.1987;147:1561-1564.

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