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うみねこ通信 No.48 平成15年6月号

整形外科におけるプロジェクトX

整形外科部長  岡村 良久

ミレニアム2000年から早3年、新しい21世紀はどういう方向へ進んでいくのでしょうか? 医学界では2000年から”運動器の10年”が提唱されています。これを機会に学問的な発展はもとより、整形外科がより幅広く認識されればと願っています。ここでは、最新の整形外科領域におけるトピックスを3つばかり述べたいと思います。

1 脊髄損傷再生

脊椎(背骨)の中には脳から腰部まで脊髄神経が通っており、この神経から手足など体中に神経の枝(末梢神経)が出ています。末梢神経は、たとえ切断されても縫合や移植することで時間はかかりますが、その機能はほとんど回復します。しかし、残念ながら脊髄が損傷されるとその部位の神経細胞が死滅してしまい、損傷レベル以下のマヒが残ってしまいます。いままで損傷された脊髄自体を縫合したり、損傷部に腹部から血流が豊富な組織(大網)を移植したりする方法などが試行錯誤されてきましたが、よい結果は得られていません。

最近、自己複製能力と多分化能力をもった神経幹細胞を培養して損傷脊髄に移植する方法が、まだ動物実験レベルですが試みられています。神経組織から選択的に神経幹細胞を培養することなど問題は多々ありますが、神経幹細胞が損傷された脊髄で適切な神経に分化していけば、将来的に失われた手足の機能が回復する可能性も皆無ではありません。

2 軟骨修復

関節の表面はその動きを円滑にして、できるだけ負担がかからないように硝子軟骨組織で覆われています。この関節軟骨は非常に血流が乏しいため、欠損したり損傷されると修復が難しいところです。自然に治ることはほとんど期待できず、なんらかの治療が必要となります。軟骨修復の歴史は長く、傷んだ軟骨部分を切除して、その下層の骨組織からの軟骨様組織での修復術や骨膜、軟骨膜などの移植などが行われてきました。しかし、これらの方法で得られた組織は硝子軟骨とは少し性質が異なった、強度が弱い軟骨様組織が大部分です。

現在最も広く行われていて、その成果が確認されている方法に自家骨軟骨片移植があります。但し、自分の正常部位から骨軟骨片を取るため大きさに限界があります。また、自分の軟骨細胞を培養、増殖させて損傷部位に移植する方法も北欧で研究されて、日本国内でも行われつつありますが、いまだ確立された方法とは言い切れません。

3 ロボット手術

整形外科では、人工関節や靱帯再建の手術などで正確な骨切り角度や固定ポイントの設定が重要です。最近3次元コンピュータモデルを使って手術前の作図通りに手術用ロボットに覚え込ませるナビゲーションシステムが実用化されてきました。現在は、米国を中心に人工関節手術、膝靱帯再建手術、脊椎固定手術などに応用されており、日本でも一部の施設で使用されています。

膝靱帯再建手術を例にとりますと、熟練医師と研修医師、ロボットの3者が同じ手術を行ったところ、熟練医師とロボットには差がないものの、研修医師は明らかに成績が劣ったとの報告もあります。当然、手術は熟練した技術も重要ですが、定型的な処置にはロボットの手を借りることも必要と考えられます。現在の問題は、精度の改善もさることながら、非常に高価なシステムでなかなか購入できないことですが、近い将来には一般的にも実用化されることと思います。

以上、整形外科において現在チャレンジされている一般診療に役立つ代表的な研究について述べてみました。整形外科は直接生命にかかわることは少ないですが、人生にプラスアルファーな要素をもたらすものと考えます。皆様が整形外科をよく認識して、広く利用されることを願っています。

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