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うみねこ通信 No.70 平成17年4月号

ペット、Pet、PET

放射線科部長  伊神  勲

我が家には、ミニチュアシュナウツァ-と言うペットがいます。放っておくと毛むくじゃらで何犬かわかりませんが、犬の美容室に行って来ると成る程「シュナウツァ-」となります。皆さんのご家庭にも種々のペットが飼われ、居るだけで心を和ませてくれていることしょう。また、Petボトルは清涼飲料の容器として、さらにリサイクルされフリ-ス衣類や各種の樹脂製品に生まれ変わる大変便利な生活必需品です。ちなみにPetとは、ポリエチレン・テレフタレ-トの略称のようです。もう一つ、大変お金の掛かるPETがあります。

最近、健康・健診ブ-ムにあやかってPET健診を謳った広告を多く目にします。時には2泊3日の温泉パック付き健診もありました。PETとはポジトロンと言う陽電子放出核種を用いた核医学検査です。20年以上前から特殊機関で脳の代謝や機能を調べる臨床研究が行われてきました。それが今やあたかも全ての癌が早期に発見できるような錯覚を覚えるPET健診がブ-ムです。残念ながら、PET検査で癌の早期発見、早期治療による死亡率低下と言うエビデンス(確証)はありません。PET検査の保険で認められた悪性腫瘍は、脳、肺、頭頚部、乳房、食道、膵、大腸、リンパ腫、黒色腫、転移性肝癌、原発不明癌など多くの癌の中の一部です。当然、健診で見つけやすい癌もほぼ同じです。

PETによる癌検査とは、ブドウ糖にポジトロン核種をラベルして体内分布を調べます。癌組織では元来正常組織よりも増殖が盛んなため、ブドウ糖が多く消費されることから癌に核種が集まり易く、検出できるわけです。しかし、正常の体でも普通の状態で脳や心臓、腸管、腎、膀胱、運動後の筋肉などでブドウ糖の消費が多く、炎症にも多いものです。このため、PETは万能ではないのです。また、PETの有用性が強調された肺癌の検査では、確かに肺癌の90%が検出されますが、10mm以上の大きさでないと検出が難しいこと、PETで陰性だった肺腫瘍の10%が必ず癌として大きくなります。ちなみに、日本で広く行われているCTによる肺癌検診では、必要に応じて1~2mmの薄さで肺を輪切りに出来るため直径数mmの腫瘍が検出できます。これが癌であるか否かは、針を刺すか手術して細胞を採取する方法がありますが、一番簡単な方法は3~6ヶ月後のCT再検です。癌であれば少しづつ大きくなります。肺癌で転移がなく手術で完全に治せる大きさは10mm以下です。数mmのものが10mmになるには1年以上掛かります。

また、PETの売りの一つに早期に癌の転移巣が見つかるというのがありますが、転移巣が一つであろうが10個以上であろうが、治療方針の多くは変わりません。また、早期に小さな転移巣を見つけようが、転移巣の症状が出現してから治療しようが生命予後(後どの位生きるか)には大きく影響しません。特に、生命予後に直接関わる脳、肺、肝臓などの重要臓器は、CTやMRIでPETよりもずっと詳しく観察することが出来ます。

以上、PET不要論と取られそうなことをいくつか述べてきましたが、実は私たち画像診断医はPETが欲しいのです。PETは通常の画像診断で見る病巣の大きさではなく、生理的状態や機能を反映します。癌であれば生きているか否か判定できます。リンパ腫や黒色腫などのどこに飛んで(転移)いるのかわからないものが見つかります。諸検査を補うものがPETです。しかし、PETは高額です。保険適応の検査でも7万5千円(この3割負担)、健診では15万円前後でしょう。PETを導入するにも十数億円は掛かります。そして、PETを稼働させる人件費と維持費が大変掛かるため、1日20人を検査してもぎりぎりの収支です。これは到底無理な検査数です。幸いにして、いずれMRIによる全身検索が可能となり、PETの様な全身の癌検査が出来ることでしょう。

「人生いろいろ、ペットも色々」。ペットではありませんが、当労災病院放射線科も皆様に愛される安心と憩いの場となるように努めさせて頂きます。

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