自動血圧計が普及し、いまや血圧は体重なみに簡単に得られる身体情報です。今月は血圧基礎知識と最近の情報をお話しします。

(1) なぜ腕に帯を巻く方法で血圧が測れるの？

上腕に巻いたカフでほぼ心臓の高さで測定することが標準です。動脈注射せずに測定するこの方法自体は古いけれども巧妙な発想で、その原理は動脈が拍動性血流であることと、血管が狭い区間があると聴診器で血流音が聞こえる、の二つに基づいています。上腕のカフ圧を強くして腕の動脈を狭くして一時的に血流を止めてから徐々に緩めてゆくと、ある地点で狭いながらに血流が再開する音がします。このときの圧が「最高血圧」。さらに緩めてゆくと狭さが消失した地点で音が消えます。このときの圧が「最低血圧」です。この方法によって動脈に点滴をつないで描く圧曲線の最高値／最低値と同等に近い数値がわかります。

(2) 動脈血圧の単位mmHg(ミリ水銀柱)ってどのくらいの圧？

動脈血圧は水銀の重さの圧力（水銀圧mmHg）で表します。体の他の圧は水圧ではかることもあり、たとえば中心静脈圧は水深4cm程度、頭蓋内圧は水深12cm程度です。水銀（Hg）は比重13.6gr/mlで水の13.6倍なので、動脈圧は水圧に換算すると血圧100mmHgが1m36cm、血圧150mmHgが2m4cmも噴出する圧に相当します。もし血圧を水柱計で測るなら、長くて持ち運びは大変ですし目盛を読む看護婦さんも脚立が必要です。
動脈は高圧を一生ささえて血液を送り続ける役割を担っています。

(3) 理想の血圧って？

2004年に日本の血圧の新しい基準が提案されました。血圧によって生じる疾患予防目的のため、成人における正常血圧値は以下の値です。

• 最適血圧120／80mmHg未満。
• 正常血圧130／85mmHg未満。（家庭血圧だと125／80mmHg未満。）
• 正常高め130～139／85～89mmHg。

(4) 白衣高血圧(White coat hypertension)や仮面高血圧(Masked hypertension)。

普段は正常範囲なのに診察室で血圧が高いいわゆる白衣高血圧は「緊張のせい」で済まされがちですが、真の高血圧を将来発症する危険が約三倍高いという報告(Arch Intern Med. 2005;165;1541-6）もあり要注意です。また病院での血圧が正常で家庭血圧が高いという仮面高血圧もそれ以上に多いという学説（Pickering TG）もあり、家庭内血圧の値は重要です。
40歳台頃まで正常血圧で安心していたら、50歳で血縁に逆らえず高血圧になる人も多く油断大敵です。

(5) 血圧診療の現状

昔は140／90mmHg未満が正常でしたが、新しい目標値の低さは治療する医師にとっても衝撃的で、「脳梗塞の患者さんや高齢の方は血の巡りをよくするため多少血圧が高くてもよい」という先入観の修正を迫られています。未治療で症状のない高血圧の方に治療を納得してもらうには熱意と時間がかかり、治療開始後も正常血圧に慣れるまでめまいや不安から「薬を飲んだら合わない」という方もたくさんいて、無症状に近い高血圧の人には治療を勧めてもあまり受けはよくありません。

(6) 高血圧予備軍の方へ。