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うみねこ通信 No.101 平成19年11月号

夢の放射線治療

放射線科部長  伊神 勲

すでに100年以上前になりますが、1895年11月8日にレントゲン博士が未知の「X線」を発見し、すぐに奥さんの手のX線写真を論文に掲載し、放射線診断学が始まりました。翌年には放射線治療の歴史も始まりました。1898年にはキュリー夫人がラジウムを発見し、放射線治療に利用されました。しかし、その当時から放射線治療の歴史は、副作用との戦いの歴史でもあったのです。放射線を際限なく照射すればすべての癌は死に絶えます。しかし、癌よりも弱い正常組織を壊さない程度の放射線治療では、照射する量に限度があるため、完全には癌を消滅させることが出来ませんでした。

癌治療の三本柱は、手術、抗癌剤と放射線治療です。一般的に多くの癌に対する放射線治療は、手術ほどの切れ味はありませんが、抗癌剤よりも効果のある局所療法です。しかし、喉頭癌Ⅰ期は放射線治療のみで完治します。以前より欧米では、手術と同程度の効果から、乳癌や子宮(頚)癌、前立腺癌に放射線治療が多く行われていました。欧米では癌の約半数に初回治療として放射線治療が行われています。残念ながら我が国では15~20%しか用いられていません。

放射線治療の利点は、
  • ① 癌を手術しないで治療するため機能・形態が保たれます。
  • ② 如何なる部位(手術できない)でも治療できます。
  • ③ 手術に比べて体の負担が少なく、他の病気で手術や化学療法が困難な人、高齢者でも治療できます。

現在一般に行われている放射線治療は、X線とr線です。共に光と同じ電磁波です。X線やr線を体の外から患部に照射すると、深部に入るほど次第にそのエネルギーが減衰していきます。そのために、色々な方向から照射して、癌の部分のみに放射線を集めて治療します。現在は、機器とコンピューターの進歩から、「定位放射線治療」という周囲の正常組織の線量を減らして、三次元的に癌のみを治療する方法が工夫されています。ラジオサージェリー(サージェリーは手術)、ガンマナイフ、サイバーナイフといった、手術と同程度の切れ味を持った放射線治療が始まっています。また、強度変調放射線治療といって、照射する放射線の強さを細かく分割し、色々な方向から癌のみに放射線が集まる様にする放射線治療も始まりました。いずれも、周囲の正常組織を温存し、癌のみを治療する方法です。

放射線治療の高度先進医療には粒子線治療があります。光速の40~80%に加速した陽子(ようこではなく、ようし:水素の原子核)や炭素原子を患部に照射すると、正常組織をすり抜けて癌部で粒子が停止する直前に、膨大なエネルギーを放出して組織を破壊します。周囲の正常組織を傷つけずに治療する、夢の放射線治療です。ちなみに電磁波による放射線治療は癌細胞の分裂期で最大の効果が発揮されます。細胞が分裂する際に放射線エネルギーが、DNAをずたずたに壊して再生出来なくします。ところが粒子線治療は、分裂期以外の細胞や放射線が効きずらいどんな癌にも有効です。また、炭素原子は陽子よりも大きいので、約3倍の破壊効果があります。大きな炸裂弾です。このような粒子線治療施設は、現在国内に6箇所あります。広大なアメリカでさえ陽性線治療のみで6施設です。原子力先進地域のヨーロッパでは陽子線と炭素線あわせて9施設です。日本では今後さらに6施設の建設計画があります。多くの人が。手軽にこの粒子線治療の恩恵に預かれるように切望します。

放射線治療に用いられる線種

日本は人類初の被爆国です。非核三原則を始め、非常に強い核アレルギーを持っています。ところが、現実には原子力とか放射線の平和利用には非常に積極的であり、高度な施設をたくさん持っています。

今後も安全で有効な放射線治療が、多くの患者さんに利用されることが望まれます。

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