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うみねこ通信 No.105 平成20年3月号

心臓弁膜症について

心臓血管外来部長  小野 裕逸

心臓には血液の逆流を防止するための弁があります。大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁の4つです。いずれも大事な働きをしていますが、中でも大動脈弁、僧帽弁が重要です。

大動脈弁:心臓の左心室は全身に血液を送り出すためのポンプですが、左心室と大動脈の境目にあるのが大動脈弁です。ここが開放することで抵抗なく全身への血液循環が保たれますし、閉鎖されることで心臓への血液の逆流を防ぐとともに、大動脈の根っこの部分での冠動脈の血流もを調節します。先天的に異常をともなうこともありますが、近年増加しているのは動脈硬化性の変化にともなう大動脈弁狭窄症です。これは弁の肥厚・硬化・石灰化により開放制限をきたすことによります。通常、成人であれば大動脈弁開放時の面積は3~4㎝2あると言われますが、この疾患の場合、1㎝2以下となることも珍しくありません。弁そのものの可動性も低下していますから、閉鎖不全と言って逆流を合併していることも少なくありません。弁膜症の初期にはほぼ無症状である時期が長く、狭窄に対して心臓は筋肉が肥大することで対処します。狭いところを血管を送り出すために筋肉が肥大して力を蓄えて代償しているわけです。この時期が過ぎると次第に筋線維の長さが伸びてきます。この結果、心拡大が進みます。徐々に肥大した筋肉は薄っぺらくなり、心筋の収縮力は低下しだします。この時期になると心不全症状が顕性化してくるようになり、手術治療のメリットを享受しきれなくなりかねません。20年ほど前はこれらの疾患は弁膜症の中でもあまり多くはありませんでした。高齢化社会の到来、食生活の欧米化などの要因もあり、近年非常に増えている疾患のひとつです。治療は手術により弁を切除して人工弁を挿入する必要がありますが、われわれが信頼して使用できる人工弁のサイズは直径19㎜のものが最小です。ところが、患者さんが女性の場合には、もともとの体格が小さいために、通常の手段では19㎜の人工弁を植え込むことが困難なことも目立ちます。そのような場合には、弁輪拡大術といって大動脈から弁輪の組織をパッチで拡大・形成するような手技が必要となります。

僧帽弁:まだ日本の衛生状況がよろしくなかった頃、学童期にリウマチ熱という疾患に罹患することが多かったと聞きます。リウマチ熱は風邪症状とあまり変わらないのですが、これに罹患した際に菌血症といって血液に細菌が入った状態になります。この細菌は心臓の弁に巣食って、弁の炎症を起こします。この結果、弁の構造に異常をきたし、リウマチ熱の際には心雑音を聴取することもあるわけです。ただ人間の体はそのような悪者をやっつけることができます。弁の局所ではリウマチ熱にともなう炎症が治癒へ向かいます。ところが…。われわれが腕などをケガした時でも同じですが、瘢痕などを生じてキズの部分が後になって硬くなったりひきつれてきたりするということはよく経験します。これと同じようなことがリウマチ熱罹患後20年や30年もたってから生じてきます。このようにして生じた弁膜症として多かったのが僧帽弁狭窄症です。弁は肥厚・硬化し、可動性がなくなります。本来の逆流を阻止するという機能も侵され、閉鎖不全症も併発することがあります。僧帽弁の弁口面積は正常で4~6㎝2ですが、この疾患でしばしば1㎝2以下となります。僧帽弁が血流の障害となっているため肺に負担がかかり、しかもこの状態が何十年と続いているものですから、肺血管自体にも器質的な変化を生じ肺高血圧をともなってきます。非常に重篤な病態へと進んでしまいます。しかし、近年、リウマチ性の弁膜症自体は非常に少なくなっています。今、増えてきているのは虚血性僧帽弁閉鎖不全症、なかんずく、心筋梗塞後などで生じる虚血性僧帽弁閉鎖不全症ではないかと思います。これについては、別の機会にでもお知らせします。

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