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うみねこ通信 No.110 平成20年8月号

高血圧症と心房細動の最近の医学情報

脳神経外科部長  鈴木 直也

脳神経外科の本業は手術による治療ですが、他方で手術では治療できないことの多い脳卒中の代表が脳梗塞です。したがって外科医の観点で言うと、脳梗塞こそ予防する以外に手はありません。

脳梗塞には二種類あり、一方は脳血栓(のうけっせん:脳動脈自体が動脈硬化でつまる場合)で、他方は脳塞栓(のうそくせん:上流から血液の固まりが流れてきてつまる場合)です。当院の神経内科と脳神経外科のある年度のデータ解析では、脳血栓が78%、脳塞栓が22%でした。脳血栓が多いけれども5人中1人は脳塞栓という結果です。重症な脳梗塞の多くは後者の脳塞栓でした。脳血栓の原因で多いのが高血圧症、後者の原因は心房細動という不整脈でありました。

今回は脳梗塞の原因として重要な、高血圧症と心房細動に関して、最新の医学データを紹介します。

<高血圧症>

「動脈硬化のある方や、高齢の方は、血圧が高い方が血のめぐりが良くなるから、血圧は多少高くてもよい」という俗説があり、医師の一部でさえそう信じていますが、世界的な大規模研究の結果からはこれは誤りです。高血圧自体が動脈硬化を悪化させ脳梗塞を引き起こします。「血圧の薬を処方されたらかえって具合がわるくてやめてしまった」もよく聞く話ですが、これも合う薬がみつかるまで主治医と相談して試すべきです。脳動脈硬化症を悪化させないための理想血圧は 110~120㎜Hg台で、130㎜Hg台は許容できるが少し高め、140㎜Hg以上は高血圧です。「血圧は低い方だと思っていた」という人でも年齢 40~60歳頃に高血圧に転じる人もあるため、今血圧値が正常の方であっても生活習慣次第では4~5年先は保証できません。

数年後に高血圧を発症する危険率を算出する論文が最近発表されましたので、図表にて紹介します。ただしこれは白人のデータであるためそのまま日本人に通用するとは限らないのですが、その内容は十分参考になります。図表1で点数を算出して、図表2に照らし合わせてみてください。

<図表1>1、2、4年後の高血圧発症率の算出式

1、2、4年後の高血圧発症率の算出式

<図表2>高血圧症の発症リスク

高血圧症の発症リスク

<図表3>脳梗塞の累積発症率

脳梗塞の累積発症率

<心房細動という不整脈>

心房細動は無症状のことが多く、年齢とともに多くなり、80歳台には10人に1人の割合にも達するといわれています。時々短時間生じてはもとにもどる発作性心房細動と、ずっと長期に(たとえば10年以上も)心房細動のまま暮らしている慢性心房細動もあります。年齢とともに発作性から慢性に転じる傾向があります。発作性心房細動の場合は数ヶ月に一度しか不整脈がでない人もいて健康診断でさえ発見できないこともあります。大半の心房細動は脳に対しては悪さをしないのですが、一部は脳塞栓を繰り返す方がいて、脳梗塞発症前にはなかなか予測できません。最近の研究では、発作性心房細動も慢性心房細動も将来脳梗塞を起こす危険度は同等です(図表3)。

当院でもMRI検査をうけて脳に異常がなかったのに脳梗塞になってしまったという患者さんの大半が心房細動が原因で、いままで悪さをしなかった心房細動が、脱水症や感冒や心不全をきっかけに脳塞栓を発症してしまう方もいました。脳梗塞を一、二度発症してから初めて発作性心房細動が判明する例も多くありました。怖い話ですが、心房細動をもつ患者さんが命を落とす危険率を示した最近の研究データを図表4に示します。

<図表4>心房細動患者さんの将来の命の危険度

心房細動患者さんの将来の命の危険度

脳梗塞があると短命となる危険があります。ワーファリンは血液凝固を抑制する薬で予防効果があります。意外にも心房細動を治そうとする治療薬の一部はかえって結果が悪いのですが原因はわかりません。

心房細動と診断された方々や、一過性脳虚血発作(脳卒中のようなマヒや片眼の視力低下が数分あるいは24時間以内に回復すること)の疑いのある方々は、現在無症状であっても主治医の先生や近くの脳神経クリニックに相談して、脳のCTスキャンやMRI検査を受けることをお勧めします。

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