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うみねこ通信 No.128 平成22年2月号

動脈硬化とIVR

放射線科部長(副院長)  伊神 勲

少し昔の話になりますが、死に神の「死の四重奏」というものがありました。すなわち、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満です。最近は内臓脂肪型肥満に糖尿病、高血圧、高脂血症のうち2つを加えると、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群:以下メタボ)と呼ばれています。メタボがなぜ悪いかと言うと、太った脂肪細胞がアデイポサイトカイン分泌異常という不都合なホルモン分泌増加をきたします。これにより高血糖、脂質異常、高血圧が進行・悪化し、ひいては全身の動脈硬化が進みます。動脈硬化が進むと動脈壁が肥厚し、内腔が狭くなり閉塞します。動脈が閉塞すると、脳梗塞、心筋梗塞などが起こります。また、動脈が硬くなるとさらに高血圧も進行し、脳出血もきたします。すなわち脳卒中(脳梗塞、脳出血等)、心臓病、癌の三大死因の内、二大死因がもたらされ、とっても死にやすい状態となります。

動脈硬化は全身病ですが、主に脳動脈硬化症、頸動脈狭窄、狭心症・心筋梗塞、腎動脈狭窄、閉塞性動脈硬化症(骨盤~下肢動脈閉塞)などと呼ばれる病気があります。大動脈瘤も動脈硬化が原因となります。脳梗塞患者の 10~20%に高度頸動脈狭窄が認められます。狭窄率50%以上の頸動脈狭窄の患者のうち、心筋梗塞、狭心症、閉塞性動脈硬化症の既往は各々16%、 23%、17%というデータがあります。心筋梗塞を起こしたことのある患者には非常に高い脳梗塞リスクがあります。閉塞性動脈硬化症の患者の約50%には心臓の動脈狭窄があり、20%の患者には高度頸動脈狭窄が認められます。また、閉塞性動脈硬化症の患者の5年生存率は約40%で、死因の75%は心臓疾患です。今では、癌全体の5年生存率が約60%の時代ですので、非常に高い死亡率と言えます。

IVR:インターベンショナル・ラジオロジーとは、放射線科(ラジオロジー)の血管造影手技を用いた「外科的介入治療」と言う意味です。その歴史は、 1964年にアメリカのC.Dotter 先生が血管拡張術を行ってから、器具の進歩と共に放射線科で急速に発展した手技です。従来の手術を行わないで、全身の血管の塞栓術や拡張術を、血管以外では食道、気管、胆管、卵管などの拡張術を行っています。しかし、日本では残念ながら放射線科医が少ないため、血管内治療と称して循環器科医が心臓や大動脈の治療を、放射線科医以外にも脳外科医が脳動脈の血栓溶解や頸動脈拡張術を行っています。また、消化器内科や呼吸器内科も食道や気管の拡張術を行うようになりました。現在動脈硬化による病変には、まずIVR(血管内治療)が行われています。脳内動脈の狭窄には保険適応がありませんが、頸動脈狭窄には一昨年から保険適応が通りました。心臓、腎臓、骨盤~下肢の動脈拡張術は30年くらい前から行われています。また、胸部や腹部大動脈の動脈瘤にもステントグラフトと言う人工血管が、大きな手術なしで血管内から挿入されています。

現代は飽食の時代です。決して他人事ではなく、少し気が緩むとすぐにメタボになります。メタボが進むと死に神の餌食となるか、放射線科や循環器科医の餌食となるのです。さあ皆さんは、メタボに甘んじますか。その先には死に神かIVR医が待っています。

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