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うみねこ通信 No.133 平成22年7月号

心筋梗塞後の機械的合併症

心臓血管外科部長  小野 裕逸

急性心筋梗塞は、これほど医学が進歩してきた現代においても、なお死亡率30~40%もあると言われる疾患です。その原因は動脈硬化にあり、生活習慣病としての一部をなし、最も忌み嫌われる疾患のひとつであります。心筋梗塞の一般論に関しては内科の先生に譲るとして、今回、外科医であるわれわれがお話するのは、心筋梗塞後の機械的合併症のことです。

機械的合併症というと、耳慣れない用語でありますが、簡単に言いますと、心筋梗塞の結果の心筋壊死にともない、心破裂を生じる病態のことであります。大別しますと、①左室自由壁破裂、②心室中隔穿孔、③乳頭筋断裂とがあります。

①左室自由壁破裂
左心室の自由壁破裂をきたすことは、急性心筋梗塞後の3~10%にあると言われています。この病態は、blow-out型とwoozing型のふたつに分類されますが、心臓を包む心膜とのスペースである心のう内に急速に血液が貯留し、心タンポナーデと言われる状態となります。心のうドレナージや経皮的心肺補助装置の装着などを行い、外科的に破裂部を修復する必要があります。しかし、これらの処置は準備そのものに時間がかかることが多く、その間の循環維持が困難となりやすく、決して救命率が高いとは言えません。
②心室中隔穿孔
心筋壊死の結果、右心室と左心室の境界をなす心室中隔という部位に破裂を生じた場合、心室中隔穿孔と呼称します。血流は左心室から大動脈へと流れるのが正常ですが、この病気の場合、右心室の方へ漏れてしまい、結果、肺血流が急速に増加します。肺を通った血液は再度左心室へ戻ってきますが、左心室は心筋梗塞となっており、増えた血流を十分には処理できません。このため重篤な心不全症状に至ります。稀に心筋梗塞後の慢性期まで持ちこたえることもありますが、殆どの場合、発症急性期に手術治療が必要となります。手術は穿孔部を閉鎖することに尽きるのですが、梗塞により心臓の筋肉は豆腐のようにもろくなっています。そこに針糸をかけて修復することは新たな裂け目を作ることとなり、各施設で様々な工夫を凝らしています。それでも手術死亡率は30%近くになります。
③乳頭筋断裂
左心室の中に乳頭筋という構造物があります。乳頭筋に発する腱索という組織が凧の糸のように僧帽弁を支えております。この乳頭筋が壊死に陥り千切れてしまい、僧帽弁を支えることができなくなった状態が乳頭筋断裂であります。僧帽弁の支えがないということは、イコール、弁の閉鎖に伴う逆流防止という機能が破綻することであり、急性の僧帽弁閉鎖不全症をきたします。本来、左心室の収縮により大動脈への血流を駆出し、その時僧帽弁は閉鎖し、左心房への逆流を防いでいます。この機構が破綻することで左心房へは、左心室からと肺静脈からの血流が停滞し、肺循環が正常に維持されません。肺水腫といって大変重篤な状態を引き起こします。緊急手術で人工弁に交換する必要がありますが、運良く手術まで持ちこたえたとしても、その手術死亡率は30~40%にも上ります。

今回のうみねこ通信では、あまりにも極端な例を提示させていただきました。これらの病態以外にも、心臓性突然死の原因となる致死的不整脈や、梗塞後慢性期に生じる心室瘤など、心筋梗塞後の種々ある合併症はいずれも重篤です。発症してからの治療は専門の病院で速やかに行われるべきものですが、何よりも予防が大切です。生活習慣病は以前は成人病と言われておりましたが、読んで字のごとく、小さい時からの生活習慣に根ざした疾患群であります。「もう遅い」と言って諦めるのは、ある意味個人の哲学の問題となりますが、家族全員、地域の皆でよい生活習慣を身につけたいものです。

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