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うみねこ通信 No.158 平成24年8月号

前立腺癌の治療

泌尿器科部長 柳沢 健

日本では急激に前立腺癌の患者数が増加しており、前立腺癌の死亡者数は2015年には約2万人にまで増加すると考えられています。日本で前立腺癌の患者数が増加している原因として、社会の高齢化と食生活の欧米化(高蛋白・高脂肪食)が指摘されています。また、PSA(前立腺特異抗原)という採血検査の登場により、早期の前立腺癌が多く見つかるようになりました。
 さて、もしあなたや身近な人が前立腺癌と診断されたらどうしたら良いでしょう?すぐに手術を受けなければならないのでしょうか?
 前立腺癌の治療は、大きく分けて4つの方法があります。内分泌療法、手術療法、放射線療法、PSA監視療法です。内分泌療法は3か月に1回の皮下注射や内服薬により男性ホルモンを抑えて病気を治療する方法で、入院の必要がありません。手術療法は前立腺を外科的に取り除く方法で、3-4週間の入院が必要です。放射線療法にはいくつかの種類があり、体の外から前立腺に放射線を照射する外照射法や、放射性物質が入った小さなカプセルを前立腺の中に多数埋め込む小線源療法等があります。外照射法は6-7週間の入院または通院が必要ですが、小線源療法は数日間の入院で済みます。PSA監視療法は、定期的な採血検査を行い、PSAが上昇してきたら治療を開始するもので、それまでは何も治療しません。悪性度の低い前立腺癌は命にかかわらない事も多いため、不必要な治療を極力行わない事を目的としています。
 前立腺癌の治療方針を決めるためには、年齢、転移の有無、癌の進行度、癌の悪性度、持病の程度等を総合的に判断する必要があります。
 まず、第1のポイントは転移があるかないかです。転移がある場合は、内分泌療法が選択され、通常は手術や放射線治療を行いません。手術や放射線治療は前立腺そのものに対する治療で、転移病巣には効かないからです。
 第2のポイントは年齢です。病院によって多少の方針の違いはありますが、一般的に75-80才以上は手術を行いません。前立腺癌はゆっくり進行する事が多いため、75-80才以上では手術をしなくても、薬等で十分癌が抑えられる事が多いからです。ただし、80才以上の高齢者でも、ご本人の希望が強ければ手術する事があります。手術と放射線治療の生存率は5-10年後の比較であれば、あまり違いはありません。しかし、それ以上の長期となると手術が放射線治療より少し治療成績が良くなります。従って、70才未満で特に持病がなければ手術が勧められる事が多いでしょう。しかし、放射線治療や内分泌療法も間違いではありません。
 第3のポイントは癌の悪性度や進行度です。悪性度が低い場合はPSA監視療法も選択に入りますが、悪性度が高い場合は、手術や放射線治療が勧められます。また、癌が前立腺の外まで広がっている場合、手術では取りきれない危険性があります。その場合は、内分泌療法と放射線治療の併用が、手術よりやや治療成績が良いと言われています。
 第4のポイントは持病の有無です。心臓病や脳梗塞、糖尿病等の持病がある場合は手術のリスクが高くなります。また、血液をサラサラにする薬を飲んでいる場合は、手術前後に休薬しなければいけませんので、血管が詰まる危険性があります。このように、持病の状態によっては手術を避けた方が良い場合があります。
 実際に治療法を選択する際には、医師から各治療法についてしっかり説明を受け、十分に納得した上で治療を受けるようにしましょう。患者さんにとってどの治療法が一番良いのか判断が難しい場合がありますし、医師や病院によって治療法の選択が若干異なる事もあります。決心が付かない場合は、他の医師の意見を聞く「セカンド・オピニオン」も有用です。また、自分でもある程度、前立腺癌について勉強する事も必要でしょう。前立腺癌の治療は最終的には自分で決める事が必要です。

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