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うみねこ通信 No.168 平成25年6月号

余話 当世ますい事情

麻酔科部長 若山 茂春

余話その1 麻酔科医が参加する偶発症例調査とは?

麻酔と手術は表裏一体の関係にあり、麻酔なくしては安全で快適な手術はできませんが、実は麻酔自体にもリスクがひそんでいます。麻酔中に心停止、ショックなど生命が脅かされそうになった症例を検証し、再発防止に役立てようと、1992年より毎年「麻酔関連偶発症例調査」が行われ、当院も発足当初から参加しています。麻酔科医が行った全麻症例は年間130万件に達しています。このような大規模調査は世界でも類を見ないものです。

最新の偶発症例調査2009~2011では、3年間に計440万1910症例が登録され、危機的偶発症は5353症例でした。術後30日以内死亡率は全体で1万症例あたり3.93、麻酔管理が直接原因は0.07/1万症例でした。全体での死亡率は、調査2004~2008の5.56/1万症例と比べて有意に低下しています。麻酔管理自体による死亡は32症例報告され、薬物過量投与、誤嚥、輸液、輸血管理不適切などでした。気管挿管不適切による死亡は1症例のみ(0.002/1万症例)の報告でした。

余話その2 みんなで覗こう気管の輪

「きかんそうかん」と入力すると、皆様のワープロソフトではどのように変換されるでしょうか。期間・機関・既刊etc、相関・壮観・創刊etc、種々様々あると思います。筆者のコンピューターでは仕事柄、真っ先に「気管挿管」と変換されます。締め切りに追われて原稿書きやスライド作りをしていると、誤変換に気づかず、衆人環視の中で例えば「気管送管」と発表し迷変換と嘲笑されます。「気管挿管」は日常生活には全く無縁のものですが、医療の現場では、全身麻酔だけでなく心肺蘇生・人工呼吸など、命に関わる医療行為の最重要項目の一つです。麻酔が深くなると患者さんの自発呼吸は抑制されます。手術では全身の筋肉を柔らかくする筋弛緩薬も同時に使用するので、人工呼吸、気管挿管は必須です。

この「気管挿管」は、患者さんが麻酔で眠ってから行われることが多いので、一般の方々にはチンプンカンプンでしょう。眠った後、L字型の器具(喉頭鏡)を口の中に入れて、声を出す声門という場所を見て、小指の太さくらいの柔らかなチューブを入れます。1分以内で終える操作なのですが、この声門は操作している医師にしか見えず、意外と熟練を要します。気管のつもりが食堂に間違って入ったら大変です。最新の高度テクノロジーの波は、麻酔現場にも間断なく押し寄せています。片手で握って口の中で操作しているうちに、歯の1本でも傷つけそうな重くてゴツイ金属製の古風な喉頭鏡も、小型液晶パネルを装備したプラスチック製に取って代わりました。斬新なデザインでいかにもスイスイと挿管できそうな錯覚に陥ります。自動車教習所で言えば、マニュアル車とオートマチック車で坂道発進した時のあの感触でしょうか。先日、新人研修医の院内教育で、医療用マネキン相手に最新式を使わせたら、初めてなのに1~2回で成功したのには驚きました。複数のスタッフが液晶パネルを見ることで、ちゃんと気管に入ったことを確認でき、手術患者さんの安全性が高まりました。今、全国の麻酔科医で爆発的人気のバカ売れアイテムです。

余話その3 質の良い麻酔を目ざして

日本で麻酔が本格的に研究され、専門医師が養成されるようになったのは戦後で、本県では昭和40年に始まり、そろそろ50年近くになります。現在、麻酔専門医が常勤する病院は、青森県南では当院を含め八戸市内4病院、十和田市内1病院となっています。麻酔の黎明期にはアメリカの影響が大きかったため、ガス状態にして肺から吸う吸入麻酔が主流でした。現在は点滴注射する静脈麻酔の割合が増えています。5、6年前から使用され始めた静脈麻酔薬は、強力な鎮痛作用、深い麻酔が得られるため、血圧や心拍数が安定して、血糖も上がりにくく、循環器・脳血管・糖尿病などの合併症のある患者さんでも管理をしやすくなりました。持続投与をやめると3分くらいで効果を失い、患者さんによっては数分で目を開けます。そんなに早く覚醒して本当に麻酔がかかっていたのかと言われそうですが、目覚めた後でも手術が終わったことすら気づかない患者さんが多いです。重い持病がない限り高齢者でも30~50分程度で目覚めます。吸入麻酔では手術直後に吐き気や嘔吐が多いのですが、最近の静脈麻酔では、手術直後のこのような不快な症状が少ないように思われます。かつては手術中ただ眠っていれば良かった「麻酔」の時代から、目覚めがよく終わった後もストレスの少ない快適で「質の良い麻酔」の時代へと確実に変遷しつつあります。

 

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