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うみねこ通信 No.209 平成28年11月号

重症筋無力症について

神経内科部長 栗原 愛一郎

神経疾患は聞きなれない病名が多く、最近でこそパーキンソン病などと患者さんの方から言ってくることも有りますが、どういう病気ですかと聞かれる事が大半です。病気の頻度も低く神経疾患で最も多いパーキンソン病でも人口10万人当たり100~150人、本疾患は2006年の調査で同12人、現在患者数は全国で2万人を超えると推定されています。今年に入り立て続けに2人が治療目的で入院、外来にも新規患者が1人おり、今回はこの疾患についてお話したいと思います。

病気で障害される部位は、神経筋接合部という末梢神経の運動神経線維が筋組織と接する場所で、オーム真理教のサリン事件のサリン、有機リン系の農薬、食中毒の原因で治療薬にも使われるボツリヌス毒素、コブラの蛇毒、南米インディオの矢尻の毒などもこの部位に作用します。ここでは脳からの電気信号が伝わると神経線維の末端からアセチルコリンという物質が分泌され、筋肉側の膜にあるアセチルコリンレセプターといわれる部位にくっつき、再度電気信号を生じ、その結果筋肉が収縮し手足が動きます。最近別の抗体も発見され、また抗体陰性の場合もありますが、多くの場合はアセチルコリンレプターに対する抗体ができ、神経から筋肉に電気信号がうまく伝わらなくなり症状が出現します。また胸腺と言う臓器の良性腫瘍や過形成といってリンパ球成分が増え大きくなっている状態が合併することが有り、抗体の産生や活性化等の免疫反応に関与していると考えられています。

症状としては、瞼が下がったり物が二つに見える事が多く、その他四肢、頸部、顔面の脱力、喋りづらさ、飲み込みづらさ、噛む力がなくなる、呼吸が苦しい等が有り、何れも易疲労性と日内変動を呈する事が特徴的です。長く見ていると段々瞼が下がってくる、物が徐々に二つに見えてくる、物を噛んでいる間に疲れて噛めなくなる、長電話で最後には鼻から空気が抜けフガフガした言い方になる、歯磨きやシャンプーを長く続けられず休み休みしないと出来ない等で、これは正常な人より筋肉が疲れ易いためで症状は休めば改善します。また夕方になると疲れてきて症状が悪化します。女性が男性の1.7倍と多く、どの年齢にも発症しますが最近は高齢発症の患者が増加してきています。症状の部位より眼筋型と全身型に分類され、約半数は眼筋型で発症し、更にその半数は全身型に移行します。

検査としては、血液検査で上に述べた抗体を調べたり、テンシロンという薬剤を注射し眼瞼下垂、複視の消失を確認する検査、項部や上肢の神経を電気で反復刺激する検査が有ります。また胸腺腫の確認のためにMRIやCTを撮ります。

治療法は副腎皮質ステロイドやカルシニューリン阻害剤と呼ばれる免疫抑制剤を内服し症状の改善を待つのが基本で、他にアセチルコリンの分解を抑制し症状を改善させる抗コリンエステラーゼ剤の内服や、症状の悪化、特に呼吸不全が急激に出現する場合や難治例に対して抗体を取り除く血液浄化療法、他の自己免疫性疾患でも使われる大量ガンマグロブリン静注療法があります。以前は副腎皮質ステロイドを1日50~60mg、2ヶ月程度内服し、その後ゆっくり減らしていましたが、長期使用で顔貌の変化(丸い赤ら顔)、糖尿病、骨粗鬆症、白内障、抑うつ等の副作用が有り、症状のなくなる人の割合も変わらない事より、できるだけ減量し1日量5mgとする指針が最近出ています。ただし達成率は現状では1/2~1/3程度で、治療開始早期に血液浄化療法やステロイドパルス療法(1日500~1000mgの副腎皮質ステロイドを3日間点滴静注)を行い、副腎皮質ステロイドは少量で維持する方法が提案されています。

胸腺摘除術は成人の場合、従来は胸腺腫のある症例はもちろん、胸腺腫がない場合でも全身型であれば全例で行っていましたが2000年に多数の文献例を検討した結果、胸腺腫がない場合は有効とする根拠はないとする報告が有り、最新のガイドラインでは手術適応は胸腺腫例と若い発症早期のアセチルコリンレセプター抗体陽性患者となっていました。ただ文献例での検討のため、現在国際的なランダム化試験が進行中で、有効性については結果待ちの状態です。

1900年に重症筋無力症の病名で初めて報告され、「重症」という病名の通り、1940~1957年の死亡例が全体の3割を占めたという海外の報告も有ります。しかし1970年代にステロイド治療が導入され呼吸器管理の普及発展も有り予後は改善、最近の報告では半数の患者さんは仕事や日常生活が普通に出来ており、本症が原因での死亡例は殆どなく、病名から重症をとったほうが現状にあっていると思います。

 

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