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うみねこ通信 No.204 平成28年6月号

渡航医学~高山病、旅行者下痢症、トラベラーズワクチン~

第三消化器内科部長 濱舘 貴徳

「渡航医学」または「旅行医学」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。

渡航に関連した医学全般を対象とする学問分野で、主に感染症予防、高山病、スキューバダイビング、海外渡航に関連したメンタルヘルスなどを対象としています。今回は、あまり耳慣れない渡航医学について述べます。

渡航と聞くと、まず観光としての海外への旅行を思い浮かべるのではないでしょうか。

例えば、定年退職を迎え、これまでは行けなかった海外旅行を計画するかたもいるでしょう。スイスの登山鉄道”ユングフラウ鉄道” は人気のある鉄道で、この列車はヨーロッパ最高所の終着駅であるユングフラウヨッホ駅を目指します。列車に揺られながら美しい山々と大自然を眺め列車は進み、途中アイガーヴァント駅、アイスメーア駅に停車。そこからは切り立ったアイガー氷河を見ることができます。そして終着駅ユングフラウヨッホへ。世界遺産であるヨーロッパ最長のアレッチ氷河を眺望することが可能です。

しかし、ここで頭痛、嘔気、嘔吐、倦怠感、めまい、もうろう感などの症状がみられることがあります。なぜなら、終着駅は標高3,454mにあるからです。ちなみに富士山の標高は3,776mです。この症状は、急性高山病の症状で、2,700mの高度へ急激に登ると10~40%、3,500mの高度では40~90%のかたが発症すると言われています。一般的に急性高山病の予防として、ゆっくり登ること、お酒は飲まないことなどがあげられます。発症した場合には、300~1,000m下山すると症状は良くなります。下山が難しいようであれば、同じ高度で休養し24時間経過しても悪化するようなら、やはり下山を考えなければなりません。その他、予防目的にダイアモックスというお薬を少量で内服する方法も勧められています。

旅行者で一番多い病気として、下痢を起こす旅行者下痢症があります。主にアフリカ、アジア、ラテンアメリカ、中東への旅行でよくみられますが、その他の地域でも発生します。旅行者下痢症の予防として、安全な食べ物と水を選ぶ必要があります。ペットボトル入りの水や炭酸飲料を飲むこと。生の魚介類や生卵、生野菜は食べないこと。十分に火が通ったものを食べること。フルーツはカットされたものではなく、自分自身で皮をむいて食べること。歯磨き、薬の内服には精製された水を使用することなどがあげられます。

海外渡航というと、観光以外では海外勤務のため家族を伴い海外へ長期滞在することも含められます。外務省による調査では2013年海外長期滞在者数は約84万人で、そのうち中学生以下の小児は約7万人と報告されています。この際の問題のひとつとして、ワクチン接種があげられます。小児のみならず成人においても、滞在先に応じたワクチン接種が勧められています。これら渡航のためのワクチンをトラベラーズワクチンと呼びます。

重要なワクチンのひとつとして、致死率ほぼ100%の狂犬病に対するワクチンがあげられます。この40年間本邦での感染を認めませんが、これまで海外で感染し帰国後発症した例があります。

狂犬病というとイヌに咬まれ発症すると理解している方も多いと感じますが、哺乳動物に咬まれると発症する危険性があります。イヌの他にネコ、ウサギ、コウモリ、齧歯類などがあげられます。また、咬まれた場合には24時間以内のワクチン接種が必要となります。滞在国によっては国境を越えなければなりませんが、政治的リスクにより国境封鎖などが発生した際には移動不可能な地域も存在し、事前に病院へのルートなどを調べておいた方がよいでしょう。

また、高校生、大学生などが海外留学するときにもワクチン接種を行うこともあります。カナダ、米国への留学の際、本邦の定期接種のみでは許可されないことがあり、これまでの予防接種歴や罹患歴などを証明する書類を留学先へ提出しなければならないこともあります。

渡航医学とは、このような分野です。観光、学業または海外勤務を有意義なものにするためにも、海外渡航が決定した際には、滞在先の気候、生活様式、政治的リスクのみならず、医療という側面からも検討されてから安全に渡航されることをお勧めします。

 

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