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がん診療センター

高精度放射線治療の世界へ

副院長・放射線治療科部長 真里谷 靖

平素から当院の運営並びに医療連携につきまして、格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。令和2年より当院で開始した高精度放射線治療についてご紹介したいと思います。

日常的にがん診療に携わっておられる方々を除きますと、おそらく先生方が、がんと聞いて放射線治療という言葉を即座に思い浮かべることは多くないと思われます。 欧米などに比べ日本では特にそうなのですが、がんの局所治療といえばまず手術を考え、放射線治療が第一に挙がることは今日でも一般的ではないでしょう。しかし欧米では、放射線治療が全がん患者のおよそ60%に用いられており、外見・形態や機能温存を重要視する彼らの考え方からすると、同等の治療成績が得られる場合でも今なお放射線治療より手術が重視される日本の現状は不可思議なものと映るようです。

放射線治療専門医としては、まずこの放射線治療が有する低侵襲性、形態・機能温存性、さらに最近の技術的進歩がもたらす強力な抗腫瘍効果、がん薬物療法や免疫療法との優れた併用効果などに注目していただき、放射線治療が手術に匹敵するがん局所治療法となった事実を受け入れて下さることを切に望みます。また放射線治療といえば有害事象を気にされる方も多いと思われますが、格段に進歩を遂げた現代の放射線治療における有害事象は全般に軽度であり、がん薬物療法や術後変化に起因する症状の方が大変な場合が多いのは患者さん自らがよくお話しされることです。さらに近在の患者さん達は通院治療が可能で、体調や生活に合わせた様々な照射スケジュール(線量分割)の調整・選択を行うことができます。これらは高齢の患者さんが無理をせずにがん治療に立ち向かえることを意味し、高齢化が進む現代において放射線治療はがんに対する代表的な武器になったことを意味します。

高精度放射線治療と総称されるものには、“ピンポイント照射”と呼ばれ大線量投与が可能な定位放射線治療(STI)/体幹部定位放射線治療(SBRT)、標的の形状に合致させて照射し周辺臓器の急峻な線量低減を図る強度変調放射線治療(IMRT)、画像情報を用い放射線治療時の誤差をリアルタイム補正し正確に照射する技法である画像誘導放射線治療、生理的運動である呼吸の影響(誤差)をできるだけ小さくする呼吸運動対策などがあります。例えば限局性前立腺がんには、直腸等への有害事象が低減され良好な機能保持が可能となったIMRTが適しますし、早期肺がんの患者さんでもSBRTを用いることで手術と同様の良好な腫瘍制御が期待できます。形態・機能温存が最も重要な領域である頭頸部がんでもIMRTは活躍し放射線治療が中心的役割を担います。進行がんにおいては、化学放射線療法による肺がん、食道がん等での着実な治療成績改善、転移性脳腫瘍、転移性肺腫瘍、転移性肝腫瘍等におけるSTI、SBRTの卓越した局所制御、Ra-223内用療法併用が可能となった去勢抵抗性前立腺がん・多発性骨転移治療での予後やQOL改善など、かつては想像できなかった結果が得られています。また免疫放射線療法では、免疫チェックポイント阻害剤との併用でabscopal効果を何度も経験し驚くこともしばしばです。

もちろん放射線治療でがんの全てに対峙できるなどという大それたことは考えていません。しかし専門医としては、がん治療の中で未だ過小評価されがちな放射線治療が有する(皆さんの想像以上の)威力や低侵襲性に改めて目を向けていただきたいと思います。その意味において当院で高精度放射線治療が開始されたことは、地域全体で広く知っていただくべきトピックと考えます。付け加えますと本年7月には現行システムのバージョンアップ、即ちIMRTの進化形である回転型強度変調放射線治療(VMAT)やportal dosimetryの導入がなされ、治療に伴い縮小していく腫瘍や患者さんの身体の変化にリアルタイムで即応する適応型放射線治療という、さらに精細な先進技法を目指すことになります。適応となる患者さんがおられましたら、是非当院にご相談・ご紹介をいただきますよう宜しくお願い申し上げます。