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うみねこ通信 No.235 平成31年1月号

新年のごあいさつ

院長 玉澤 直樹

新年あけましておめでとうございます。

皆様におかれましては、つつがなく新しい年をお迎えのこととお慶び申し上げます。平素より、当院へのご協力、ご支援に厚くお礼申し上げます。

当院はこれからも地域医療に貢献するため、「やさしくあたたかい病院」という当院の理念を職員全員が心にとどめ、地域の皆様から信頼される病院を目指して参ります。そのために、高度急性期から回復期まで、すなわち地域の皆様方の病気の発症から在宅復帰支援まで切れ目のない医療を提供して参ります。

また昨年からは、労災病院として「がん」や「糖尿病」などの疾患を患った勤労者が仕事を続けるための支援や、それを受け入れる事業場からの相談に応じる「両立支援相談窓口」を院内に設置しました。そして短時間に、廉価でできるお気軽検査や乳がん検診も開始しました。どうぞお気軽にご相談ください。

最後となりますが、皆様にとりまして健やかで、楽しい年となりますよう祈念しまして、年頭のご挨拶といたします。

深部静脈血栓症

心臓血管外科部長 小野 裕逸

深部静脈血栓症とは、体表面ではなく体の深い位置にある静脈に血栓が生じる病気であります。本来、人間の血液は体内では凝固することはないのですが、以下のような場合に血栓症を生じることがあります。

①血管内皮障害
骨折・外傷やカテーテル留置・治療、血管炎をきたす各種病態などが原因としてあげられます。血管内皮の損傷に伴い、同部の修復機転として局所に形成される一次血栓、二次血栓が関与します。
②血流停滞
寝たきりなどの長期臥床、下肢麻痺、長時間座位(旅行や災害時)、加齢によるもの。筋運動の少ない状況、下肢運動が制限される状況では静脈血流が遅滞、静脈還流が阻害されることによるためです。
③血液凝固・線溶系異常
悪性腫瘍、妊娠、外科手術後のホルモン環境の変化、感染症、脱水などの病態では血栓形成をきたしやすくなります。また先天的に血栓溶解にたずさわる酵素の欠損などがある場合(血栓性素因と呼ばれます)には微小血栓を溶解することができず、血栓症を起こしやすくなります。

いずれの部位にも深部静脈血栓症が生じることはありますが、頻度として多いのは下肢の深部静脈血栓症であります。このところ食生活の欧米化などの要因もあり、下肢深部静脈血栓症の発生頻度は増加の一途をたどっており、20年前位との比較では30倍以上との報告もあります。この疾患群に対する関心が高まり、超音波検査で検出しやすくなったことが発生数増加に大きく貢献?していることも否めませんが、診療していて目にする機会は確実に増えています。10年ほど前の統計で、人口10万人あたり年間12人ほどの発生数があると言われていました。欧米では50人とも言われており、日本でもこの数値に近づいていくのではないかと危惧されています。最近では災害時の発生に関する報道記事などをよく見かけるようになりました。

発生部位としては、骨盤内静脈、大腿部、下腿部いずれの部位でも起こります。症状には、血栓の進展速度と静脈の閉塞範囲による還流障害の程度、炎症反応が関与します。骨盤内静脈などの中枢型の血栓症では、患肢の腫脹・疼痛・皮膚色調変化を認めます。下腿静脈の末梢型では、主に疼痛を訴えますが無症状のことも多々あります。診断は、超音波検査やCT検査で容易に可能です。血液検査は、前述した血栓性素因の有無を確認するうえで重要です。注意すべきは、血栓の進展により肺動脈への塞栓症を生じることがありうる点です(肺塞栓症)。エコノミークラス症候群として有名な疾患でありますが、これは、飛行機の狭いシートでほんど下肢筋運動をすることなく長時間のフライトとなった場合に、下肢静脈内で血栓を形成、着陸して歩行を開始したところ下肢筋運動により静脈血流が促され、肺動脈へ血栓が流れていき生じるものです。大量の血栓であれば一瞬で死に至ることもありえる病態です。

下肢深部静脈血栓症の治療は、血栓の進展予防、肺塞栓症の予防、血栓後遺症の軽減につきます。血栓進展予防・溶解目的に使用する薬剤として血液凝固能を抑制する抗凝固剤があります。従来はワーファリンという薬しかありませんでしたが、食事や肝機能などの影響を受けやすく、出血性合併症が比較的多いものでした。投薬量決定にその都度血液検査が必要でもありました。最近では一定量の投薬で安定した抗凝固活性をもつ薬が使われだし、第一選択の薬剤になると思われます。また、肺塞栓症を予防するために腹部の静脈にフィルターを留置することもあります。全例が適応となるわけではなく中枢進展型の場合に対象となります。後遺症として患肢腫脹があります。急性期の腫脹よりは相当改善するのですが浮腫を残すこともあり、慢性期には弾性ストッキング着用なども勧められます。

下肢筋は第2の心臓と言われており、日頃からよく動かすことで静脈血流を促すことが最大の防御法であることは間違いありません。

 

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