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検査科部長 山岸 晋一朗
「病理医(びょうりい)」という医者をご存じでしょうか。病理医の日常業務は、組織(細胞)診断、術中迅速診断、病理解剖ですが、ある調査では、日本では、病理医を知っている人は半数以下で、その仕事の内容についてはほとんどの方が知らないという結果だったそうです。病理医を主役にしたフラジャイルという連載漫画があり、2016年春にドラマ化され、かなり期待していたのですが。弘前大学医学部での病理学講義の際に学生に評判を聞こうとしたら、フラジャイルはフジテレビ系列での放送だったので、弘前では視聴できないと言われてしまいました。八戸では視聴可能だったのですが、見た方はどのくらいいるのでしょうか?
「組織(細胞)診断」
内視鏡(胃カメラ)検査で、消化器内科医はおかしいと思ったら、変化のある胃粘膜の一部を摘み取ってきます。呼吸器内科医は、気管支鏡検査であやしい部分をつまんできます。乳房にしこりがあれば、外科医はしこりに針を刺してしこりの一部をとってきます。このようにしてとられてきた小さな組織片あるいは細胞検体から、顕微鏡標本(病理組織標本)を作り、病気の診断をするのが病理医の仕事です。その結果、悪性(がん)と診断されると、外科医は胃がんや肺がん、乳がんを手術することになります。
そして、手術でとられてきた臓器を調べるのも、病理医の仕事です。とられてきた臓器をよく観察し、適切な部分を顕微鏡標本にして、がんの種類(一口にがんと言っても、たちの比較的いいものからたちの悪いものまで、種類がたくさんあります)、がんの進行の度合いなどを調べて、外科医に報告します。がんに対して使う薬が、そのがんに対して効果があるかどうかの検査も、病理組織標本を使って行うこともあります。
「術中迅速診断」
病理組織検査には、通常はやくても二日、大きいものだとさらに数日かかりますが、組織が採られてから15分程度で診断するのが迅速診断で、手術方針の決定に深く関わっています。具体的には、肺の病変ががんか結核か(切除範囲が変わります)、がんが取りきれているか(断端にがんがあれば追加切除になります)、乳房のしこりが良性か悪性(がん)か(良性ならしこりのみ切除、がんなら乳房を大きく切除)。また、現在増加している乳がんでは、Quality of Life (QOL)を考慮して、乳房をできるだけ残す手術が増えてきていますが、その様な縮小手術では術中迅速診断による断端検索が不可欠です。
「病理解剖」
病理医の重要な業務に病理解剖があります。病理解剖は、治療の甲斐なく病気で亡くなられた患者さんの、死亡原因、病気の広がり具合、治療による効果などを調べ、今後の診療に生かしていくことが大きな目的です。病院の病理解剖数は、厚生省や日本内科学会が指定する研修・教育指定病院の基準の一つとなっています。また、研修医は臨床研修を終えるまでに、症例検討会で病理解剖された患者さんについて発表することが必要です。病理解剖の医療における重要性を示していると思いますが、画像診断などの向上により以前と比較するとその数は減少傾向にあります。しかしながら、思いもよらない重大病変がみつかることもあり、医療の質の向上のため、臨床医から要望があれば迅速に対応できるよう努力しています。
病理医は、直接患者さんを診察することはありませんが、病理組織標本の向こうにいる患者さんのことを想像しながら、毎日顕微鏡に向かっています。ぜひ、お見知りおきを。