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薬剤師 中野 有瑛
「薬剤耐性」という言葉をご存知ですか?薬剤耐性は今私たちが緊急的に取り組まなければならない問題の一つです。感染症にかかったとき、抗菌薬(抗生物質と呼ばれることもあります)を使って治療します。よく知られている抗菌薬としてはペニシリンがその代表例でしょう。抗菌薬は細菌が体内で増えるのを抑えたり、壊したりする薬です。しかし、細菌も様々な方法を駆使して生き延びようとしています。このようにして抗菌薬が効かなくなることを薬剤耐性といいます。薬剤耐性菌は体内で増殖し、ヒトや動物、環境などを通して広がってしまいます。抗菌薬の不適切な使用はこれを助長してしまうため、医療の現場では抗菌薬の選択・使用にあたっては特に注意しています。しかし、抗菌薬が適正に使用されるためには、抗菌薬を処方された患者さん側の協力も必要になります。今回は薬剤耐性菌を生み出さないために、普段から気を付けていただきたいことをまとめました。
~薬剤耐性菌を生み出さないために私たちができることとは?~
①決められた用法用量を守って飲む
1日3回服用しなければならない薬を1日2回にして飲む、症状が軽くなったからといって決められた日数飲み切らない、これは抗菌薬によって退治されかけていた細菌が薬剤耐性を獲得する絶好のチャンスになります。抗菌薬を処方されたときは必ず、決められた用法用量を守り最後まで飲み切りましょう。
②風邪に対して抗菌薬を使用しない
風邪で病院を受診したとき「こんなにつらいのになぜ抗菌薬を処方してくれないのだろう。」「抗菌薬を飲めばすぐ良くなるのに。」なんて思ったことはありませんか?風邪はウイルスによって引き起こされる疾患です。細菌とウイルスは全くの別物であるため、細菌に効果を示す抗菌薬を飲んでも効果がないばかりか、副作用を起こす可能性もあります。十分な休息をとり、自分の免疫力で治すのが一番です。風邪と思っていても何らかの感染症の疑いがある場合は抗菌薬が処方されるときもありますが、それ以外は抗菌薬を必要としない場合がほとんどです。必要なときだけ抗菌薬を使用しましょう。
薬剤耐性の問題は日本に限ったことではありません。2016年に日本で開催されたG7伊勢志摩サミットでも薬剤耐性が議題に取り上げられています。国際化が進み、世界各国を多くの人が行き交う時代です。 他国で生み出された薬剤耐性菌が持ち込まれる、反対に日本人が他国に持ち込み広げてしまうという可能性も十分にあります。そのため、日本を含めたあらゆる国々で抗菌薬適正使用のために様々な取り組みを行っているところです。
新しく開発される抗菌薬が少なくなってきている今、抗菌薬を大切に使っていかなければ、将来使用できる抗菌薬がなくなってしまいます。このまま何もしなければ、2050年には薬剤耐性菌による死者数が年間1000万人になるという報告もあります。このような予想を現実にしないためにも、薬剤耐性に対して危機意識を持ち、その使用についてご理解とご協力をお願い致します。