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消化器内科副部長 五十嵐 剛
2019年8月に、東京お台場の商業施設ダイバーシティ東京プラザに、「うんこミュージアムTOKYO」がオープンし話題となりました。うんこだけをテーマにした日本初のミュージアム(エンターテイメント施設)だそうです。私たちの健康寿命の延伸には、スムーズな排便が欠かすことはできません。今月は「便秘」のお話です。
便秘は、多くの人が経験している日常的なものです。改めて、排便までの流れを整理します。正常な場合、口から摂った食べ物は胃で消化され、小腸に送られます。さらに小腸で消化されると共に栄養素が吸収されて、さらに大腸へと送られます。大腸に入ったばかりの便の素は、水分を多く含んでいてドロドロとしています。便の素は、腸の壁がゆっくりと波打つように収縮する運動(=蠕動運動)によって運ばれていきます。大腸を通過する間に水分が吸収されて、排便時の硬さになっていきます。そして大腸内に一定量の便ができると、直腸に送られます。すると私たちは便意を感じ、直腸や肛門の筋肉を緩めて便を排泄します。その流れがスムーズにいっていない状態が便秘です。大腸が便を運ぶ蠕動運動が上手くいかなかったり(=弛緩性便秘)と、直腸まで降りてきても上手く出せない(直腸性便秘)ことで、結果的に便が長時間大腸の中にとどまり、どんどん水分が吸収されて、便が硬くなって益々出しづらくなってしまいます。
その原因は様々ですが、治療のポイントは4つです。
1つ目は、『食生活』です。水溶性食物繊維(バナナ、海藻、なめこ等)、ヨーグルトや納豆などの発酵食品、オリーブ油が効果的です。
2つ目は『運動』で、お腹をマッサージするエクササイズや、腹筋などの排便に携わる筋肉の筋力アップが良いといわれます。
3つ目は、『生活リズムを整え排便環境を意識すること』です。一つのアイデアとして、食後は腸の動きが活発になり便意を催しやすい状態となるため、食後に意識して便座に座ってみることを習慣化することが有効なことがあります。
4つ目が医療機関における薬物治療です。便秘の薬は、腸内で水分の分泌を増やし便を柔らかくして排便を促す薬と大腸の蠕動を促す薬の二つに大きく分かれます。大腸の蠕動運動を促す刺激性下剤は効果が高いものの、長く使い続けると慣れが生じて効果が落ちてくるのが特徴であり、日常的に使用するのではなく、便が出にくいときに限定して使用するのが上手な使い方です。
さて題名の「明珠在掌」は聞き慣れない言葉ですが、「明珠(=大切な宝)は外の世界には無くて、あなたの手の中にもうありますよ」という意味の禅語です。
便秘の治療の4つのポイントの内、3つは私たちの生活の中にあります。長きに患うことの多い便秘なだけに、リズムを取り戻す鍵が身近にあるのを知ることは、生活を見直してみようかなと前向きな気持ちにさせてくれます。
ただし、医療機関での薬物治療をご検討頂く方が良い場合の目安もあり、週3回程度排便しているかどうか、加えて、腹部膨満、残便感などがある場合です。