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泌尿器科部長 石橋 祐介
5月に入り、新年度から慌ただしく過ごされてきた状態が一段落した頃でしょうか。この時期は、学校や職場では健康診断を受ける方が多くいらっしゃいます。それとは別に、ご自身の健康状態を確認するために健康診断を受ける方も多くいらっしゃることでしょう。
健康診断では採血検査やX線検査、超音波検査等が広く行われております。それともう一つ、尿検査も行われております。今回は健康診断での尿検査(検尿)についてお話をしたいと思います。
健康診断での検尿は小学校、中学校の義務教育の時から、学校保健法の下に実施されています。もちろん高校生、大学生も行っていますが、大学生は受診率が低いのが現状です。
成人では、労働安全衛生法、老人保健法のもと、勤労者のための職場健診、40歳以上の一般住民を対象に地域健診も行われています。このようなシステムの中で抜けている対象は学校卒業後で40歳未満の未就労の方々だけです。その方々は40歳までは健診・検尿をする機会がありません。
検尿で発見される異常は、無症状のタンパク尿、血尿です。この異常が認められた際には、腎臓の糸球体(血液中の老廃物や塩分をろ過し、尿として体の外に排出する働きを行っているところ)が障害されている可能性があります。
タンパク尿は、一過性のものと持続的なものとに分けられます。一過性のものの例としては生理的タンパク尿(風邪などで発熱した際に発生)や起立性タンパク尿(臥床、安静時は尿タンパクが陰性で、随時尿にだけ尿タンパクが出現)が挙げられます。持続してタンパク尿が認められる場合には、将来的に腎臓の働きが悪くなる慢性腎臓病が隠れている可能性があります。ひどい時にはネフローゼ症候群という、尿にタンパクがたくさん出てしまうために、血液中のタンパクが減り(低タンパク血症)、その結果全身にむくみ(浮腫)が起こる疾患が隠れている事もあります。
血尿は、見ただけで異常と分かるような赤色やピンク色、暗赤色やコーラ色といった尿(肉眼的血尿))の他、見た目では異常と分からない尿の中に血液の一部である赤血球が混じる状態(尿潜血)があります。血尿が認められた際には、健診では行われない尿沈渣(尿を遠心分離器にかけて、沈殿した赤血球や白血球、尿酸血症、細胞、白血球、細菌などの成分の量を調べる検査)を行う事で、腎臓の病気や尿路の病気を詳しく調べる事が出来ます。
腎臓に病気が無くてもタンパク尿や血尿が認められる事があり、注意が必要です。代表的な疾患は、高血圧と糖尿病です。高血圧は、血圧がコントロールされると尿タンパクは陰性になります。糖尿病は、血糖のコントロールが不良だと糸球体が障害され、尿タンパクが増加していきます。
健康診断は受診することで、それがゴールという訳ではありません。受けていただいた『その後』が大切です。健診を受けていただき、もし異常があった場合には、再検査や精密検査を受けていただく事をお勧めします。検査を受けて何も異常が無ければ安心出来ますし、早期発見出来れば早期治療に繋がります。