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看護師長補佐 那須野 美沙紀
私は、10年以上前に受けた人間ドックで胃カメラ検査をしました。「ちょっと怪しいところがあるから精密検査に出しとくね」と先生から一言。「ちょっと怪しい…!?」その日から検査結果が出るまで、「もし何か悪い病気だったら…仕事、子育て、お金、どうしよう」という不安な気持ちだけが大きくなる毎日。結局異常はなく、取り越し苦労に終わりました。
月日が経ち、毎日忙しく仕事をしているうちにそのような出来事も忘れ「もし自分が病気になったら…」ということを考える機会もなくなってしまいました。もし、みなさんが何かの病気になったり、家族や職場の人が病気になって今までと同じように働くことができなくなったら、きっと10年前の私のように不安を感じるのではないでしょうか。
当院の使命である「勤労者医療の充実」の中に「治療と仕事の両立支援」という取り組みがあります。この取り組みは、働く意欲や能力がある人が治療のために仕事を続けられなくなったり、仕事を優先して治療がおろそかにならないように、適切な治療を受けながらいきいきと働き続けることを目標としています。
働きながら通院している人は年々増加傾向にあり、働く人の3人に1人が通院しています。これは、引退年齢が高齢化していることや、若年層に通院者が増えていることが原因と言われています。高血圧や心臓病など循環器疾患が一番多く、次いで精神疾患、糖尿病など長期間治療が必要になる病気で通院されている方が多いようです。この中で、治療と仕事の両立が難しいと言われる代表的な病気は悪性疾患と糖尿病です。かつては「不治の病」とされていた悪性疾患も治療の進歩によって生存率が向上し、長く付き合う病気に変化しています。
悪性疾患と診断された患者さんは体力的な事や職場に迷惑をかけるのではないかという不安から治療が始まる前に離職する人が多い傾向にあります。悪性疾患の両立支援には、告知された段階で働き方の選択ができることを知ってもらい、職場の環境整備や周囲の理解を求めていくことが必要になります。
また、糖尿病の患者さんは未治療や治療中断してしまう人が多いことが問題となっています。糖尿病治療中の患者さんに治療と仕事の両立が難しい理由を調査すると、「病院の待ち時間が長い」「予約がとりにくい」といった病院側が原因となるもの、「職場の飲み会を断りにくい」「治療のために休みを取りにくい」など職場環境が原因となるもの、「医療費負担が重い」「人前で自己注射がしにくい」など社会的環境が原因となるものがあります。糖尿病は長期間の治療が必要となるので、病院側や職場が通院しやすい環境を整え、患者さん本人には治療の必要性を十分理解してもらうことが重要になってきます。
このように、病気や治療過程によって必要な支援が違ってきます。さらに仕事の内容や家庭環境などによっても治療と仕事の両立を困難にする「悩み」が違ってきます。その一人ひとりの「悩み」を解決するためには患者さん本人、病院、職場の三者が情報共有し協力していくことが必要です。患者さんから仕事の内容や家庭環境、経済状況などを情報提供してもらい、病院側は治療方針や働く上で注意することを伝えます。職場では就業内容や時間の調整、通院時間の確保などを提案してもらい具体的な働き方のプランを作成します。
この情報共有をスムーズにするために両立支援コーディネーターという職種があります。両立支援コーディネーターは医療や労務管理、支援制度などの知識を持ち、患者さんに必要な支援は何かを一緒に考えてくれます。治療と仕事の両立支援については厚生労働省のホームページにも掲載されておりますので、参考にしてみてください。