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うみねこ通信 No.273 令和4年3月号

ドラマの中の麻酔科医

麻酔科部長 橋本 泰典

皆さんは医療ドラマをご覧になったことがありますか。医療ドラマは毎クール存在しているくらい多々あり、白い巨塔、ドクターX、救命病棟24時、コードブルーなど数を枚挙にいとまがありません。
主人公は外科医か救命救急医が多く、俳優さんも男性陣は唐沢寿明さん、織田裕二さん、坂口憲二さんなどなど錚々たるメンバーが務めてくれています。でも、皆さんはその外科系医療ドラマの中で、麻酔科の医師に注目したことはありますか。大手術をいとも簡単にやるためには麻酔科医の存在は不可欠だと思うのですが、記憶には残りませんよね。と言うのも大手術なのに麻酔科医の配役が無いかエキストラばかりだからで、麻酔科医の影が非常に薄くなっているからです。麻酔科医の配役があったとしても、片岡鶴太郎さん、アンジャッシュの児嶋一哉さん、東京03の豊本明長さんなど、なぜかお笑い率が高く、男優だとしても阿部サダヲさん、小手伸也さんなど個性派陣が担当し、間違っても先ほど書いた外科系主役陣の方々は担当してくれません。
ところが、麻酔科医は若い医師ほど女性率が高くなっている仕事柄、ドラマの中の麻酔科医も女性が担当する場合が増えてきました。千堂あきほさんが、『振り返れば奴がいる』 で担当した事を皮切りに、大塚寧々さん、相武紗季さん最近ではドクターXの内田有紀さんなど、名女優に担当していただくことも多くなりました。
中でも高視聴率のせいか、内田有紀さん扮する城之内博美の麻酔科医担当認知率は高く、大門未知子役の米倉涼子さんの大手術には欠かせない存在になっています。手術終了時に毎度毎度麻酔科医が発する「血圧110/70、脈拍75でサイナス!」というこのセリフ。ざっくり言うと、血圧も脈拍も安定していて不整脈もありませんと言うことで、こんな大手術でも何も問題なく終わりましたと言うことです。実際はこんな大手術では血圧をずっと安定させることは非常に難しく、「血圧80/50、脈拍110でタキッています (血圧低めで頻脈です)」の方がより現実的なのですが、ドラマとはいえ優秀な外科医と優秀な麻酔科医の組み合わせが最高の結果を生み出すと言う仕上がりに私自身は満足しております。
ここまでドラマの裏方ばかりについて書きましたが、麻酔科医が主役という皆さんに見ていただきたい作品を最後に紹介いたします。それは2008年に放送された倉本聰先生脚本の『風のガーデン』という作品です。中井貴一さんに主役の麻酔科医を務めていただき、中井さんの父役が緒形拳さん、お子さん役が黒木メイサさんと神木隆之介さんという非常に豪華メンバーとなっております。緒形拳さんは放送開始4日前に急逝され、具合の悪い中、演じてくれている拳さんの役者魂を感じることもできる作品となっています。作品の中の麻酔、麻酔科医の表現はまさに秀逸で、ドラマにありがちな大袈裟なところは全くと言って良いほどありません。一部紹介しますと、このドラマの中で「麻酔科医はある意味飛行機の操縦士と同じ。操縦士(麻酔科医)は離陸(眠る時)と着陸の時(覚ます時)に頼りにされて、あとはあまり気にされない。飛行機に乗る時(手術時)に命を預けるであろう操縦士(麻酔科医)の顔は通常見ないし挨拶することもない。麻酔科医もそれと同じで患者さんは外科医の先生の顔は覚えていても麻酔科医の顔は滅多に覚えていないものである。」と言って麻酔科を操縦士に例える主人公のセリフがあります。こう言うと卑屈な感じに聞こえるかも知れませんが、操縦士と同じで顔を覚えていないと言って、いい加減な仕事をするわけではありませんので安心して手術に臨んでいただければと思います。麻酔科医の仕事を理解していただくためには完璧な仕上がりとなっておりますので、是非ご覧いただければと思います。ただ、昔の作品ですので、レンタルビデオ店か動画配信サービスをご利用いただければと思います。
 

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