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うみねこ通信 No.276 令和4年6月号

運動のすゝめ

整形外科 前田 周吾

みなさん、「運動」と言えば何を連想しますか?学校での体育や部活動、趣味で行うゴルフや登山、地域クラブで行うバレーボールやバドミントン、サッカー、日課にしている散歩やラジオ体操など色々なものがあると思います。厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動基準2013」によると、運動とはスポーツなどの、特に体力の維持・向上を目的として計画的・意図的に実施し継続性のある身体活動のことを指します。我々整形外科が治療を行う運動器(身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称)疾患の治療方法の1つにこの運動を利用した『運動療法』というものがあります。これは運動によって身体機能障害を改善・維持したり、運動機能を改善したりする療法と定義されています。運動療法の対象は運動器疾患などの身体的な効果が期待されるものが多かったのですが、糖尿病、肥満症などの運動療法の効果が確認され、さらに循環器疾患や呼吸器疾患に対する運動療法の効果も分かってきました。また最近では認知症の予防としての運動療法がしばしば話題になっています。従来の対応ではしばしば本人の動機が得られず参加や効果が困難であった精神・心理面が関係する病気(うつ病、転換性障害、慢性疼痛、高次脳機能障害など)についても運動療法の効果が明らかになってきました。
運動療法の対象となる運動器疾患の代表として変形性膝関節症(膝関節の軟骨の質が低下し、少しずつすり減り、歩行時などに膝の痛みが出現する病気)が挙げられます。2009年の報告では40歳以上の男性では42.6%、女性では62.4%が変形性膝関節症になっており、その頻度は年齢とともに高くなり、女性に多いことが分かっています。この病気に対する運動療法は下肢の筋力強化・関節可動域訓練、有酸素運動(水泳、ウォーキング、自転車エルゴメータなど)が中心になります。運動療法を継続することで筋力や関節可動域の維持・向上だけではなく、痛みを軽減する作用や炎症を抑える作用も期待できることが明らかになってきており、また全身への効果として不良姿勢や姿勢制御障害の改善も図ることができます。その結果、日常生活動作の向上、転倒予防、病気の進行予防、精神的安定や生活の質の向上も期待できます。しかし注意しなければならないことは、運動療法は年齢や認知機能、併存疾患、生活スタイルや社会背景などを考慮して、適切に行うことができ、なおかつ継続できる内容であることが重要になります。また痛みが強い場合には鎮痛薬を使用して痛みを軽減させ、負荷が少ない運動から始めることが必要です。有酸素運動として手軽に行うことができるウォーキングですが、安全面には十分配慮して転倒予防に努めることが重要です。運動強度は各々の状態に合わせた運動負荷量を決定することが必要であり、一般的には低い運動強度から開始し、徐々に繰り返す回数や抵抗力を増やしていきましょう。運動療法は継続することが何よりも効果的であるため、日々の運動が単調にならないように運動内容を変更していくことも大切です。1回に長時間行うよりも、短時間でも週2~3回を継続して行うようにしましょう。もしどうしても手術が必要な状態であったとしても、手術前から運動療法を行って機能改善を図れば、手術後の早期回復、早期の日常生活動作の向上につながります。運動療法はほとんど全ての患者さんが適応となりますので、専門医と連携して自分にあった運動療法を見つけて継続していくようにして下さい。 
 

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