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うみねこ通信 No.305 令和6年11月号

肥満症治療のパラダイムシフト

糖尿病・内分泌内科部長 崎原 哲

現代人にとって、肥満は大きな悩みの種です。今はスマートフォンと車があれば、たった数歩で美味しくて栄養価の高い食べ物を享受できてしまう時代。そんな快適な生活に一度浸ってしまうと、人は簡単に肥満の沼にはまります。現在、日本では男性の約3割、女性の約2割が肥満に該当し、年々増加しています(ちなみに米国の肥満率は4割を超えています)。
「肥満」はBMIという指標で定義されます。BMIは体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)で算出され、日本ではこの値が25を超える場合を「肥満」と呼びます。肥満自体は単なる個性であり、決して悪でも病気でもありません。ただ、様々な疾患を悪化させ、時に生命を脅かす深刻な事態を引き起こすことがあります。糖尿病や高血圧のような健康障害を伴う場合は、その危険が高いので「肥満症」という病気として扱われます。
肥満症の治療には、生活習慣の是正が不可欠です。そのためにまず、食事・運動療法、そして認知行動療法(生活習慣の問題点を自認させ、行動変容を促す)が行われます。しかし、これら治療を継続することはとても困難で、多くの人が欲望に負け、数か月でリバウンドしてしまいます。治療難渋例に対しては、薬物治療や外科治療の併用が必要になります。

最近注目されている肥満治療
肥満治療薬は近年とても注目されています。これまで、肥満に対して有効な治療薬は殆どありませんでしたが、最近、強い食欲抑制作用を持つ2つの薬剤が現れました。セマグルチドとチルゼパチドです。いずれも小腸で産生されるGLP1やGIPというホルモンの分子構造を参考に製剤化されたものです。これらの薬剤には食後の血糖上昇を抑える作用があり、数年前から糖尿病の薬として使用されています。その治療経験から、本剤には食欲と体重を減少させる効果も十分あることが示され、2024年2月に、まず高容量のセマグルチド(商品名 ウゴービ)が高度肥満症の治療薬として使用可能になりました。本剤は、肥満症患者の体重を平均10%以上減少させることが示され、従来の治療で十分改善得られなかった患者様にとって新たな治療選択肢となっています。もう一方のチルゼパチドはまだ肥満治療薬としては保険診療で認可されていませんが、臨床研究ではセマグルチドと同等か、それ以上に体重を減らす作用があると報告されています。
高い有効性を示すこれら2剤ですが、副作用も多く、痩身目的の乱用を避けるため、使用にあたっては厚生労働省がいくつか制限を設けています。まず適応になる肥満症患者は、高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有するBMIが35以上の人、あるいは複数の健康障害を有するBMIが27以上の人です。さらに処方できる医師も、肥満症治療に関連する学会(日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本循環器学会)の専門医に限定されています。
注目されるもう一つの肥満治療は手術療法です。日本ではまだあまり普及していませんが、合併する糖尿病や高血圧の劇的な改善が期待できる治療です。胃を小さくすることで食べる量を減らし、また腸のルートを改変することで栄養の吸収も抑え、さらに胃や腸で産生される食欲調節ホルモンが変化することで、肥満症を改善させます。治療後は体重が平均10~15%減り、長期にわたって維持できている例が多いと言われています。手術治療の対象になるのは、年齢が18~65歳で、BMI>35の肥満、あるいはBMI>32の肥満症患者です。また治療できる病院は一部の大学病院などに限定されています。
近年、肥満は外見上の問題だけではなく、健康を脅かす重大な疾患との認識が高まっています。そして新たな治療法が続々と登場しており、肥満治療は今、大きなパラダイムシフトを迎えています。肥満治療を希望される場合は、まずかかりつけの医師に相談し、適切な病院/診療科に紹介してもらうことをお勧めします。
 

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