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うみねこ通信 No.298 令和6年4月号
IVRとメディカルスタッフ
中央放射線部 主任放射線技師 坂本 幸夫
【能登半島地震】
- 令和6年1月1日に発生した能登半島地震におきまして、お亡くなりになられた方々、そのご家族、ご親族、関係者の方々に対しまして、心よりお悔やみ申し上げますとともに、被災者の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。また、救助救援並びに復旧活動にあたられている皆様に敬意を表します。皆様の安全と被災地の一日も早い復興そして被災された皆様の生活が1日も早く平穏に復することをお祈り申し上げます。
【IVR?】
- さてIVR(アイ・ブイ・アール)という言葉をご存じでしょうか?様々な医療場面で活躍の場を広げている治療法で、正確には“ Interventional Radiology:インターベンショナルラジオロジー” といい日本語では “画像下治療” と訳しています。皆さんが良く耳にする“ 血管内治療” や“ カテーテル治療” なども IVR の一種です。IVR の歴史は以外と浅く世界初のIVR は、1965 年米国オレゴン大学の放射線科医Chales Dotter による大腿動脈の動脈硬化閉塞に対する血管拡張術です。IVR の概念は1967 年にAlexander Margulis によるiagnostic Interventional Radiologyという言葉が提唱され、1967 年、雑誌cancer にSidney Wallace がInterventionalRadiology という総説を発表しました。IVR とは画像下治療という日本語訳の言葉通りX 線やCT、超音波などの画像診断装置を用いて画像を確認しながら人体にカテーテルや針などの細い医療器具を挿入して病気の治療を行う治療方法です。IVRの最大の特徴は外科手術のようにお腹や胸を切らずに、体の奥にある臓器や血管の治療が可能であること。また細い医療器具を用いるため患者さんの傷も小さく体への負担が圧倒的に少なく外科手術と比較してもそれに勝るとも劣らない治療効果が得られるということです。概念が提唱されてから約50年が経つ現在では医療器具の開発、進歩と共に手技は高度化し、またその適応は頭部から四肢末梢のほぼ全身において行われています。
【主なIVR】
- 主なIVR としては次の通りです。(当院にて行っていないものも含まれます。)
- 1.出血に対する塞栓術
- 胃や大腸などの消化管からの出血や交通事故などによる肝臓破裂、脾臓破裂、腎臓破裂、骨盤骨折による出血に対して目的とする血管のみを閉塞させ、出血を止める治療
- 2.血管形成術
- 超急性期の脳梗塞や心臓へ血液を供給する冠動脈の狭窄や閉塞、閉塞性動脈硬化症による下肢動脈の狭窄や閉塞また透析シャント不全や閉塞など詰まった血管を開通させたり、狭い血管を広げたりする治療
- 3.腫瘍に対する動脈塞栓、動注療法
- 肝臓がんや膀胱がん、子宮筋腫などにおいて目的とする血管までカテーテルを進めて、選択的に薬剤や塞栓物質を注入する治療
- 4.動脈瘤や血管奇形に対する動脈塞栓
- 脳動脈瘤や腹部血管の動脈瘤また肺、腎臓、四肢の血管奇形に対して選択的に金属コイルなどを用いて塞栓する治療
- 5.経皮的リザーバー留置術
- 様々な悪性腫瘍に対して点滴による外来治療を可能とするためにカテーテルを体内に留置して、薬剤を注入するための小さな装置を皮下に埋め込む治療
- 6.CT・超音波等を利用した経皮的穿刺手技
- 皮膚を大きく切ることなくCT画像や超音波を用いて細い針を体外から刺す手技。肺、骨、腹部臓器などの腫瘍の一部を採取して病理診断をつける生検や、体内に貯留した液体を吸引するドレナージ術、肝臓がんに対するラジオ波焼灼術などがある。
- 以上に掲げる様に今やIVRはさまざまな医療の領域で欠かせない存在となっています。
【メディカルスタッフ】
- メディカルスタッフという言葉を聞いたことがありますか?医療現場において医師以外の医療従事者の総称のことです。元々はパラメディカル(paramedical)という呼称が用いられていました。パラメディカルの“パラ(para)” には、側面や補強という意味があり“医療を補助する人” という意味で使用されはじめました。しかしパラメディカルは医師と医療従事者の上下関係をイメージさせ、医師至上主義的な意味として捉えられることが多かったため、協力や協同という意味を持つ“コ(co)” を用いてコメディカル(comedical)という和製英語が使用されはじめました。この背景には、医療を取り巻く情勢が高度化および複雑化して行く中で、医師、診療放射線技師、看護師、臨床検査技師、臨床工学技士など、それぞれの職種が高い専門的知識と技術を持って協力し合うチーム医療の必要性が叫ばれたためです。コメディカルという呼称は現在でも数多くの施設において用いられていますが和製英語のため英語圏の国においては通じず、またコメディを連想させる可能性もあることから、最近ではコメディカルからメディカルスタッフへと呼称がシフトする傾向にあります。さて、このメディカルスタッフですが重要な任務があります。前述のとおり、チーム医療の必要性が叫ばれている現在において医療器具の進歩と共にIVR 手技は高度化し手技内容によっては長時間を要するものもあります。IVR の“画像下治療” という和訳からも想像できるように医師は手技中画像モニターに注視しがちになります。IVR を安全に実施するためには医師に変わり、患者さんの状態や心電図などの生体情報の確認、また放射線の管理および必要画像の提供、医療器具の準備・点検などを行うメディカルスタッフの高い専門的知識と技術が必要不可欠です。メディカルスタッフがIVR を安全に成功させる重要な役割の一旦を担っているといっても過言ではありません。