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うみねこ通信 No.302 令和5年8月号

ALT が30U/L を超えていた場合、
かかりつけ医を受診しましょう。「奈良宣言2023」

中央検査部 中村 忠善

2023年6月の日本肝臓学会総会で「奈良宣言」が公表されました。ALTが30U/Lを超える人に受診、治療を促す取り組みです。ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼの略で、肝臓の中に最も多く分布する酵素です。肝機能検査で日常よく利用され肝臓になんらかの障害があると血液中に漏れ出てきます。この宣言で示したALT値30U/Lは、一般診療の基準値上限(42U/L程)よりも低く設定されています。これは肝機能の数値が基準内でも肝炎が進行しているかもしれないからです。ALTが少し高くてもそのまま放置する方が多いのではないでしょうか。このことから宣言の目的は、ALTが30U/L以上の場合、かかりつけ医や消化器内科を受診して詳しい超音波検査などを受け、肝疾患の早期発見・早期治療に繋げることにあります。
ALTが30U/L以上の場合考えられる肝臓病は、ウイルス性肝炎、脂肪肝、アルコール性肝疾患、薬物性肝障害や自己免疫性肝疾患が挙げられます。わが国ではこれまで特にB型やC型肝炎ウイルスによるウイルス性肝疾患の頻度が高かったのですが、治療法が進歩したことからこれらは減少傾向にあります。一方、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などといった生活習慣病を基盤とする非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や飲酒のしすぎによるアルコール性脂肪肝が増えています。NAFLDに罹患している人は健診や人間ドックを受けた人の約25%、2000万人前後の潜在患者がいると推測されています。NAFLDは大きく進行しない非アルコール性脂肪肝(NAFL)と進行する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の2つに分かれます。NASHを発症してからそのまま放置すると10年後に10~20%が肝硬変になり、肝硬変まで進行すると年率で数%に肝がんが発生すると言われています。脂肪肝にならないように予防すること、脂肪肝かどうかきちんと検査を受けて確かめること、脂肪肝を放置しないで検査や治療を受けることが大切です。
では脂肪肝リスクを低減するにはどうしたらよいでしょう。まず体重を減らし適度な運動することが挙げられます。脂肪肝の場合、7%の体重減少で肝臓にある脂肪の沈着率が低下し、10%の体重減少で肝臓の線維化も改善すると言われています。しかし、わが国ではNAFLD患者の約20%が非肥満者であったという報告もあり、肥満の有無に関係なく注意が必要です。日本人は肝臓細胞の中の脂肪を処理するPNPLA3という遺伝子の働きの弱い方が多いからとも言われています。肥満だけにとらわれず食事は野菜やたんぱく質をバランスよく摂り、脂質や糖質を摂りすぎないようにして適度な有酸素運動を心がけたいものです。
アルコール性脂肪肝を含む肝障害を低減するにはアルコール飲酒を控えることです。肝臓を守るためにお酒を飲まないことがよいのですが、お付き合いもあるのでほどほどにするのがよいでしょう。では適量とされる純アルコール量はというと1日20g未満となります、これはアルコール度数×酒の量(ml)×0.8で計算できます。ビール(アルコール度数5%)なら500ml、日本酒(同15%)なら約160ml(1合弱)、缶酎ハイ(同7%)なら350ml1缶に相当します。普段、とりあえずビールで乾杯しその後缶酎ハイや日本酒などを飲んでいる方は明らかに飲みすぎです。また、酒に強いか弱いかを決める遺伝子にアルデヒド脱水素酵素(ALDH)があります。日本人の多くは顔が赤くなるけれどもある程度飲めるND型タイプだそうです。肝臓を守るためにも飲酒は控えめにし、つまみも中性脂肪が蓄えられない程度に加減することが大切です。
どうぞ、この機会にアルコール性もしくは非アルコール性脂肪肝予防を念頭にALT30U/L以下かどうか健診データを見返して見てください。もし、30U/Lを超えていたらかかりつけ医を受診し超音波検査などでその後のフォローアップを行うことをお勧めします。奈良宣言が広まることを期待しています。

 

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