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うみねこ通信 No.309 令和7年3月号

S2,3PSA%について

泌尿器科部長 伊藤 弘之

PSAは「前立腺特異抗原、prostate-specific antigen」の略語で、前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパクです。多くは精液中に分泌されますが、ごく微量が血液中に取り込まれます。近年、健康診断、人間ドック、かかりつけの先生のところでの検査など、PSAをチェックする機会が増えています。一般的には基準値を超える場合、すなわち4 ng/mL以上になった場合に「PSAが高い」と言われます。
PSAが高い場合に考えられる疾患は①前立腺癌、②前立腺肥大症、③前立腺炎、などがあります。また、射精や長時間の車の運転のような前立腺への機械的な刺激でも軽度上昇する場合があります。この中で、もっとも重要な疾患が前立腺癌です。PSAの値が高くなるに従って、前立腺の組織を針で採取して病理所見を確認する前立腺生検によって発見される確率が高くなります。つまり重要なことは、PSAは高いほど前立腺癌の可能性は高くなりますが、前立腺癌だけで高くなるのではないということです。前立腺肥大症や炎症で上昇している場合もありますので、専門家の判断が必要となります。
PSA検査によって非常に早期の前立腺癌まで検出可能になった一方、偽陽性が問題となっており、PSA 4-10ng/mlのグレイゾーン領域では、がんの発見率は30%程度です。前立腺癌の診断には前立腺に針生検が必要であり、患者さんに負担を強いる不要な針生検を回避できる検査法の確立が課題となっておりました。
弘前大学 大学院医学研究科 先進移植再生医学講座の大山 力 特任教授、泌尿器科学講座の畠山 真吾 教授と糖鎖工学講座の米山 徹 助教らの研究チームは、この問題を解決すべくS2,3PSA%検査を開発しました。この検査法は青森県で開発されたもので、もちろんこの臨床研究には当院も参加しております。
S2,3PSA%検査の多施設共同臨床性能試験のために、当院を含む国内7 施設において、前立腺がん疑いとして受診した合計439名の患者(うち281名がPSA検査値グレーゾーン)から採取した血清検体に対してS2,3PSA%検査を実施し、現在、保険適応されている、PSA検査およびF/T比検査の前立腺がん診断精度を比較しました。その結果、本邦保険診療で使用可能なPSA検査およびF/T比より統計的に有意に高い結果が得られ、「90%の感度を維持しながら、36~37%の針生検回避を期待できる」との有益な結果を示しました。すなわち、今まで針生検を行っていた方の約1/3で針生検が不要となるということです。さらにMRI検査との組み合わせにより、さらに不要な針生検の回避が可能になることが期待されます。
こうした検査を総合的に考慮して、癌が疑われるようであれば精密検査(前立腺生検)を行うこととなります。「PSAが高い」と言われたら決して放置せず、一度泌尿器科の専門施設を受診されることをお勧めいたします。
 

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