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うみねこ通信 No.56 平成16年2月号

禁煙と全身麻酔について

麻酔科  岩川 力

麻酔科では手術前に禁煙をしていただいています。この「うみねこ通信」の読者の中にも主治医から手術前の禁煙指導を受けた患者さんがいると思います。また、自分はいま手術をうけるわけではないので禁煙は関係ないと思っている患者さんも急な病気やけがで緊急に手術を受ける可能性があります。

今回は喫煙が身体にどのような影響を及ぼし、なぜ全身麻酔前に禁煙が必要なのかお話しします。

喫煙は心臓や血管に悪い影響を与えます。煙に含まれている一酸化炭素が血液中に増えて身体の中に酸素をうまく運べなくなったり、血液の粘り気が上昇して、どろどろになったりします。また、血小板の寿命が短くなり、動脈血栓症の発生率も高くなります。さらに、タバコに含まれているニコチンにより脈の増加や血圧の上昇、末梢の血管の収縮が起こり心臓に負担がかかります。このような一酸化炭素の増加や血液の粘り気の上昇、ニコチンの血中濃度の上昇は2、3日の禁煙で改善されます。それでは2、3日の禁煙で十分でしょうか、そんなことはありません。喫煙による一酸化炭素やニコチンによる血圧や心臓に対する影響は2、3日の禁煙で改善しますが、肺や気管支への影響はさらに長期間の禁煙が必要となります。

呼吸器系に関しては、喫煙による炎症で気管支が刺激に対して過敏になって咳や痰が増えたり、異物を外に運び出す気管支の働きを障害するため、肺内にたまった痰をうまく出せなくなったりします。この影響に対しては1ヶ月以上の禁煙が必要とされています。

また、喫煙により免疫細胞の働きが抑制されることで免疫機能が低下するため、肺炎などの感染症のリスクが高まります。免疫機能の回復にもやはり1ヶ月以上の禁煙が必要です。

つぎに全身麻酔と喫煙の影響についてです。全身麻酔の特徴として、手術中の患者さんの意識をとること、痛みをとること、筋肉を弛緩させることなどがあります。このため全身麻酔中の患者さんの呼吸や血圧などの全身管理は麻酔科医が行い、手術という大きなストレスから患者さんの身体を守っています。また、麻酔中は呼吸も弱くなるので、呼吸を助けるために気管挿管(口の中から喉の奥の気管にかけて細い管を入れます)をして人工呼吸を行います。このとき喫煙をしていると、管の刺激で咳や痰がどっとでたり、気管支喘息のように気管支が細くなることがあります。このため身体への酸素の取り込みが悪くなり、手術のとき脳や心臓など大切な臓器が酸素不足になるおそれがあります。ひどい場合には安全な呼吸管理ができないので、手術が延期になることもあります。また手術後に肺炎になったり、傷の治りが遅くなったりする可能性があります。

4週間以上の禁煙は、術後の肺炎などの呼吸器合併症を30%減らすと報告されています。また、たばこを吸う人は吸わない人より、手術中や手術後の呼吸器合併症の危険性が4倍高いという報告もあります。それで、アメリカでは手術30日前からの禁煙が推奨されています。

全身麻酔は麻酔技術の向上、麻酔薬の進歩やモニター機器の発達により、かなり安全となってきています。この安全性を患者さん自身によりさらに高める方法が禁煙です。

最後にもう一度、全身麻酔の前には4~6週間の禁煙が必要です。より安全に、そしてより安心して手術、麻酔をうけるために、みなさん禁煙にご協力お願いします。

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