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小児科部長 大高 雅文
私は小児科医となって既に30年近くになりますが、急性脳炎、急性脳症には、弘前大学小児科に入局した当初から今日まで、その初期治療、後遺症の治療に関して悩み続けてまいりました。当時はさしたる特別な治療法もありませんでしたが、最近はその病態生理もわかってきて、予後良好な症例も徐々に増加してきています。
今回は、急性脳炎、急性脳症についてお知らせ致します。
i)急性脳炎、急性脳症とはどんな病気でしょうか。
ii)小児における急性脳炎・脳症の状況
厚生労働省の研究班(森島 恒雄 先生)によりますと、毎年、1000例以上の小児の急性脳炎、急性脳症の発症が認められている様です。その発症頻度の多い原因ウイルスのランキングですが、
急性脳症の年齢分布についてですが、インフルエンザ脳症は乳幼児が主体で、1~2歳に多い病気です。突発性発疹症に伴って起きるHHV-6脳症は0~1歳に集中しています。ロタウイルス感染に伴って起こる脳症も、乳幼児が主体です。
iii)インフルエンザ脳症
まず、初めに出てくる神経症状として、主なものが三つあります。それは、①意識障害、②けいれん発作、③異常言動・行動です。
けいれん発作の頻度は約80%、意識障害は100%、異常言動・行動は約20~30%に認められます。以上の様な神経症状症が出現した場合は、高次の医療機関への受診、又は紹介が必要となります。
頭部MRI、CT、血液検査、脳波検査も重要ですが、やはり、神経学的所見がインフルエンザ脳症の早期診断、早期治療開始には重要と考えられます。
iv)インフルエンザ脳症の発症機序
まず、感染を受けて局所で炎症性サイトカインが産生されます。そのサイトカイン、ケモカインによって血管内皮の障害などが起こり、脳浮腫がひきおこされるというメカニズムが知られています。サイトカインによってアポトーシス(細胞死)が全身に起こると、多臓器不全に至るという仕組みも大体わかってきています。
当科においても、インフルエンザ脳症に合併した多臓器不全が、速やかなメチルプレドニゾロン・パルス療法施行にて、後遺症なく改善した症例を複数例経験しております。
v)インフルエンザ脳症の治療法
できるだけ速やかに、できれば頭部MRIに明らかな異常が出現する前に治療を開始したいと考えております。けいれん発作を早期に停止させることが重要です。
なお、①~④を連続して施行します。
当科においては、上記の治療の早期開始にて、良好な臨床経過、予後を得ています。
最後に:
急性脳症の原因は多種類あり、種々の検査を施行してもその原因が不明の症例も多いのが現在の状況です。また、原因が判明しても、その治療法が確立されていない急性脳症も多いのです。炎症性サイトカインが原因と診断、又は推定される急性脳症、多臓器不全の症例の場合は、病変が進行する前に、メチルプレドニゾロン・パルス療法をできるだけ速やかに施行すべきと考えております。特に、中枢神経(脳神経細胞)は一度障害されると完全な回復は不可能です。急性脳炎、脳症も、やはり、早期診断、早期治療が重要と考えます。
今後も、更なる研究、症例の積み重ねが必要な医学的領域と考えます。