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うみねこ通信 No.156 平成24年6月号

額関節症(がくかんせつしょう)
―顎関節症は一つの病気ではないのをご存じですか?―

歯科口腔外科部長  中山 勝憲

顎の関節にカクカク音がする、痛い、口が開かない(三徴候)等の症状を持っている方はたくさんいることと思います。顎関節症は年々増加傾向を示しており、虫歯や歯周病を抑えて、第一の歯科疾患になる可能性があるとも言われています。昨今、顎関節症という名前は一般の方々にも認知され、現在顎関節症の治療中であるという方も少なくないことでしょう。しかし、顎関節症という言葉が広く知れ渡った割に実際にその病態を詳しく理解している方は少なく、重症化してから受診する方も少なくありません。まず「何科に行けばいいのか分からなかった」等、顎関節症が歯科領域の疾患であることが分からず初期治療を逸している方が多いのも事実です。また早期に治療開始した方でも「顎関節症は治らない」「改善しないので通院を止めました」等、残念な声も多く聞かれます。顎関節症は初期には軽度の症状しか呈しませんが、重症化すると関節だけでなく頭頸部全体に関連症状が広がることもあるのです。三徴候をお持ちの方はまず歯科あるいは口腔外科での精査をお勧めします。


顎関節症とは実は一つの疾患でなく、数十種の様々な病態をまとめた包括診断名なのです。例えばストレスから来る食いしばりが原因で顎を支える筋肉や靱帯を痛めたものでは単なる安静や薬物療法、スプリント療法(マウスピース様の装置をつける治療)などで容易に回復可能です。しかし、関節内部にある関節円板というクッションがずれて口が開かなくなったような病態のものには、上記のような治療は効果を現さないことが多く、関節注射や関節洗浄療法が必要であったり、こじらせると全身麻酔下での手術が必要となる事も少なくありません。では一般的にどのような病態があるのかというと大きく分けて以下の如くです。


  • 顎関節症Ⅰ型:咀嚼筋障害(顎の周囲の筋肉痛や痙攣など)
  • 顎関節症Ⅱ型:関節包・靱帯障害(歯ぎしり・食いしばりによる炎症など)
  • 顎関節症Ⅲ型:関節円板障害(間接内のクッションがずれることによる種々の病態
  • 顎関節症Ⅳ型:変形性顎関節症(骨が壊れた状態
  • 顎関節症Ⅴ型:Ⅰ~Ⅳ型に該当しないもの(精神神経学的障害が含まれる

詳しくは上記五つの病態にも細分類があり、合計数十種類の異なる病態がひとくくりとされ顎関節症と呼ばれています。よって顎関節症と診断を受けても、その種々の病態によって治療法も異なるのは当然です。治らないというのは的確な治療が選択されていないことが多いのです。細かな治療はこの紙面では言い尽くせない事から、顎関節症状の大まかな判断を示しましょう。まず比較的軽傷であるⅠ~Ⅱ型は治療法の選択にもよりますが通常数週のうちには回復します。ただし日常生活のストレスや悪習癖が関与している場合にはその除去も必要で治癒が遷延する事もあります。一方、Ⅲ~Ⅳ型のように関節包内部に問題がある病態の場合には的確な治療を選択しない限り改善が難しいことが多いのです。実際には二ヶ月以上の開口障害(口が開かない)や関節痛が持続する場合には詳しい検査をすることをお勧めします。関節内部は初期には可逆性の状態ですが、悪い状態が続くと最後には不可逆性の状態に陥り手術を余儀なくされます。この状態に移行する前に改善することが肝要なのです。無駄に様子をみたり、一つの治療法に時間を費やすのではなく、数週間で症状に改善が見られない場合には、早期の受診・治療法の変更、あるいは詳細な検査による病態の確定を行い適切な治療を行うべきと考えます。今ではMRI検査をはじめとし、関節鏡検査(注射針と同程度の細い内視鏡による関節内部診断)さえも外来で可能な時代となりました。今後は、顎関節症という病気が一つの病気ではないということをご理解頂き、適切な治療で皆様が回復されることを祈ってやみません。

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