閉じる
HOME
診療科のご案内
当院のご紹介
ご来院の皆様
採用情報
診療科・各部門
各種ご案内


HOME ≫ 各種ご案内 ≫ 広報誌のご案内 ≫ うみねこ通信 ≫ バックナンバー ≫  平成26年8月号

うみねこ通信 No.182 平成26年8月号

お口と体の健康 -歯周病治療で糖尿病がよくなる?-

歯科口腔外科医師 田村 好拡

皆様歯周病をご存じでしょうか?昔は「歯槽膿漏」と呼ばれることが多く、未だにその方がピンとくる方も多いと思います。H23年の歯科疾患実態調査では35歳以上の約8割が歯周病だといわれており、現在の歯の喪失原因の第1位が歯周病によるものです。近年、歯周病が様々な全身疾患に関与することがわかってきており今回は糖尿病と歯周病の関係についてご紹介します。
 2013年に発表された国民健康・栄養調査によると、日本の糖尿病患者数は950万人、予備軍を含めると2050万人。成人の4人に1人が糖尿病かその予備軍という計算になります。以前から糖尿病患者は歯周病を高頻度で発症することが知られており、糖尿病は歯周病に対する重要な危険因子であることが言われてきました。さらに近年になって慢性炎症性疾患である歯周病がインスリン抵抗性(後述)を介して糖尿病自体の血糖コントロールに影響を及ぼすことが明らかになり、二者の関係がより重要視されるようになってきました。
 歯周病は、歯の周囲の歯ぐきなどの組織に細菌が感染しておこる慢性炎症性疾患です。初期には歯ぐきの腫れ・歯ぐきからの出血などの症状が出現、進行するにつれ歯を支える骨を溶かしていき、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
 歯周病の原因は歯垢(プラーク)や歯石に存在する歯周病菌です。歯周病菌の産生する細胞障害物質や病原因子が歯ぐきや歯を支える骨に作用して歯周組織を破壊していきます。歯周病の発症・進行には細菌が大きく作用していますが、細菌がいるから必ず発症するというわけではなく、生体の感染防御機構のバランスが崩れ発症に至るのです。
 その生体防御機構のバランスを崩す1つの原因が糖尿病なのです。
 糖尿病の状態(高血糖の状態)では、細菌を食べる好中球(感染防御機構の中心的な細胞)の働きが低下することがわかっています。つまり、感染防御機構が十分に機能しなくなり、歯周病を含めた様々な感染症にかかりやすくなります。また、高血糖の状態では浸透圧の関係で尿がたくさん出るため、体の水分量が減るとともに唾液の量が減り口が渇きやすくなります。唾液は食べ物を消化する働きのほかに、細菌の繁殖を抑えたり組織を修復する働きがあり、歯周病の予防に作用しています。唾液の量が減るということは歯周病菌が繁殖しやすく、歯周病が進行しやすい環境になっているといえるのです。
 何度か述べてきましたが歯周病は感染症です。普通、感染症と聞くと風邪やインフルエンザのようにウイルスや細菌が駆逐されるまでの一時的な病気と思われがちですが、歯周病はこれらの感染症と違い、慢性感染症です。治療を継続しないと、歯周ポケットに潜んでいる細菌の活動を封じ込めることはできません。慢性的に歯ぐきに炎症がある状態のとき、人間の体は様々な炎症性物質(サイトカイン)を分泌して細菌やウイルスに対抗しようとします。それらのサイトカインの中には、インスリン(血糖値を下げるホルモン)を阻害する働きがあり「インスリン抵抗性」という状態を作り出します。血糖値を下げる働きのあるインスリンが阻害されれば、当然血糖値が高くなり、血糖値が高くなることで歯周病が進行していきます。こうやって歯周病と糖尿病は相互に悪影響を及ぼしていくのです。
 最近では「糖尿病患者の歯周病を徹底的に治療することで、血糖コントロールが改善された」という研究結果がよく見られるようになってきており、糖尿病の治療と一緒に歯周病治療をきちんとしていけば双方に良い影響が出ることは間違いありません。(歯周病の治療のみで糖尿病が治癒するというわけではありません)
 歯周病の治療・予防ともに最も大事なのはプラークコントロールです。自分ではしっかり磨いているようでも、深いポケットの中はなかなか綺麗に保つのは難しい部分です。歯周病予防のためにも定期的に歯科医院での専門的なケアを受けてみてはいかがでしょうか。

 

このページの先頭へ