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うみねこ通信 No.258 令和2年12月号

目に見えぬ癌滅の刃

主任放射線技師 澤橋 政美

国立がんセンターがん対策情報センターの推計では、一生涯のうちに何らかのがんになる割合は、男性が49%、女性が37%で、「男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんになる」と言われ、50歳代以上に急激に増加します。がんの治療は手術、化学療法、そして放射線治療があります。

現在では副作用も少なく、治療効果が高い放射線治療ですが、日本ではまだまだ普及率が低いのが現状です。欧米ではがん患者さんのおよそ60%以上が放射線療法を受けているというデータもありますが、日本では30%程度といわれています。そのような放射線治療はどのように変化してきたのでしょうか。

X線は1895年11月30日 レントゲン博士によって発見され、自分の手を透視してX線写真を撮ったのが最初の医学的利用とされています。がん治療のきっかけは、X線が皮膚障害を招くことが知られるようになったことでした。発見からわずか90日後に乳がん治療に利用され、その後、多数の研究者によって、良性、悪性を問わず試みられました。

もう一つの放射線源は、1898年2月 キューリー夫妻がラジウムを発見し、まもなくがん治療に応用され、1950年代にコバルト60が開発されて放射線源として利用されました。

放射線治療は、放射線によってがん細胞の遺伝子を壊しがん細胞を消滅させるため、臓器の機能や形状を温存できるのが最大の長所ですが、放射線はがん細胞だけを選択して照射することはできないため、どうしても正常細胞を傷つけてしまう諸刃の剣です。放射線治療の歴史は、正常細胞を傷つけずにがん細胞を消滅させるための技術革新がつくってきました。

当初は弱いエネルギーのX線しかつくれませんでしたが、強い放射線をつくれるようになると体の外から病巣部を照射する「外部照射」が主流になり、1965年に今の放射線治療の主力といわれていますライナック(Linearaccelerator 直線加速器)が日本に導入されました。当院では1989年(平成元年)まではコバルトによる治療、それ以降ライナックによる治療が開始されました。ライナックは、体の深部にある病巣まで放射線を届かせることが可能になりましたが、その通り道にあたる臓器にも影響を与えてしまいます。

そこで、多方向から病巣を狙う多門照射やがんの形に合わせて放射線を当てる回転原体照射が考案されました。2000年日本に導入された「IMRT(Intensity Modulated Radiation Therapy、強度変調放射線治療)」は画期的で、多方向から放射線量を変化させると同時に、CTと同等の画像を確認しながら治療を行うことを可能にしました。IMRTの導入により、正常細胞への影響は最小限に抑えられるとともに副作用も減少しました。更にIMRTの応用型で回転原体照射を加えたVMAT(Volumetric Modulated Arc Therapy、強度変調回転照射法)により、周囲正常臓器への影響を更に抑え、治療時間の短縮が可能となりました。

外部照射にはもうひとつ、通常よりも高い精度で位置決めを行い、放射線を病巣に集中照射する照射技術「SRT(Stereotactic Radiation Therapy、定位放射線治療)」があり、がんの位置が呼吸により変化する部位では、呼吸を止めて治療を行う息止め照射、呼吸しながらがんが一定の位置にきたとき照射する呼吸同期照射、がんの動きをリアルタイムに追尾しながら照射する追尾照射など最新の技術を用いて呼吸をコントロールしながら治療を行います。

高精度化が進み、治療成績は向上し副作用の軽減が達成されてきました。国内外の診療ガイドラインで放射線治療は多くのがんの標準治療のひとつとして推奨されています。

専門医から診断を受け治療の話になった際には、ぜひ外科的手術以外の「切らずに治す」放射線治療の可能性を検討してみてはいかがでしょうか。

 

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